第34話 違和感
結果発表の日から、数日。
学校の空気は変わっていなかったはずなのに、暁月こむぎは、少しだけ違和感を覚えていた。
(……なんか、見られてる気がする)
廊下を歩くとき。
教室に入るとき。
ふとした瞬間に、視線が集まる。
最初は気のせいだと思っていた。
1位になったから、ただ目立っているだけ。
そういうものだと思っていた。
でも違った。
「ねえ、今の見た?」
「見た見た」
後ろで小さく交わされる声。
振り向くと、すぐに視線が逸れる。
(……今の、なに?)
昼休み。
こむぎが席に座ると、なぜか少し空気が静かになる。
その代わり、少し離れた場所で小さなざわめき。
朝比奈桃華が近づいてくる。
「こむぎ、なんか最近さ」
「うん?」
「ちょっと見られてない?」
「やっぱりそう思う?」
こむぎの声が少しだけ小さくなる。
桃華は少し言いにくそうに視線をそらす。
「いや、気のせいじゃない……と思う」
「え?」
そのとき。
廊下の向こう。
数人の女子がノートを持って何か話しているのが見えた。
「今日も観察ポイント書いとこ」
「こむぎちゃん、休み時間の反応やばくない?」
「東雲くんとの距離も記録しとく?」
こむぎの動きが止まる。
(……観察?)
意味が分からない。
でも、ただの噂じゃない気がした。
そのとき後ろから声。
「気づいた?」
東雲悠真だった。
こむぎは振り返る。
「なにが?」
「周りのこと」
それだけ言って、悠真は少しだけ目を細める。
「……なんか、変じゃない?」
こむぎは正直に言う。
悠真は少し間を置く。
「まぁ、普通じゃないな」
その会話の少し先で。
朝倉凜空が、女子に囲まれていた。
「凜空くんってこむぎちゃんとよく話すよね?」
「どんな関係?」
「一緒に帰ったりするの?」
凜空は笑いながら答えている。
「え、普通だよ普通」
でもその“普通”が、少しだけ不自然に感じられた。
こむぎは気づいてしまう。
(私、見られてるだけじゃない……?)
ただの視線じゃない。
誰かが“観察している”。
桃華が小さく言う。
「……こむぎ、ちょっとだけ有名になってるかも」
「それ、いいこと?」
「たぶん……半分は」
こむぎは窓の外を見る。
いつもと同じ校庭。
でも、少しだけ遠く感じた。
(私、何かしたっけ)
何もしていないはずなのに。
周りだけが静かに変わっていく。
そしてその中心に、自分がいる。




