第32話 近いはずなのに
放課後の帰り道。
朝倉凜空は、軽く手を後ろに組みながら歩いていた。
(ま、いつも通りだろ)
そう思っていたはずだった。
でも、少しだけ違和感が残っている。
理由は分かっている。
テスト期間中、何度かあったあの空気だ。
暁月こむぎと同じ空間にいるときだけ、周りの視線の“向き”が変わる。
(なんであの子、あんなに見られてるんだろ)
別に悪い意味じゃない。
むしろ逆だ。
気づくと目で追われている側。
凜空はもともと、そういう視線には慣れている。
人気者扱いされるのも、囲まれるのも普通だった。
だからこそ余計に分かる。
(こむぎって、ちょっと違う)
テスト中のことを思い出す。
問題に詰まったときの小さな間。
その瞬間だけ、空気が少し変わっていた気がする。
そしてその中心に、こむぎがいた。
(本人、全然気づいてないんだよな)
それが一番不思議だった。
自分がどう見られてるかを理解してない感じ。
「ねえ、凜空くん」
女子に話しかけられるのは慣れている。
でも今日は少しだけ、返事が遅れた。
「今回のテストどうだった?」
「まぁ……普通?」
いつもの答え。
でも本当は少し違う。
(こむぎ、思ったよりできてる気がする)
それが頭から離れない。
東雲悠真のことも思い出す。
あいつは分かりやすい。
こむぎを見てるときの目が、少しだけ違う。
(あれは……気づいてる側だな)
じゃあ自分は?
凜空は歩きながら考える。
(俺はどうなんだろ)
最初はただの“気になるクラスメイト”だった。
でも今は違う気がする。
教室でのやり取り。
少し詰まったときの表情。
普通の返事なのに、なぜか気になった。
「……ま、いいか」
小さく笑ってごまかす。
でもその笑いは、いつもより少し軽くなかった。
(別に、特別とかじゃなくていいけどさ)
そう思いながらも。
すでに“気にしてる側”に足を踏み入れていることには、まだ気づいていない。




