第31話 静かな違和感
テストが終わった放課後。
教室にはもう誰もいないはずだった。
東雲悠真は窓際に立ち、カーテンの揺れをぼんやり見ていた。
(……終わったな)
そう思うのに、頭の中は妙に静かじゃない。
理由は分かっている。
この数日間、何度かあった“違和感”だ。
こむぎが問題に詰まったとき。
誰かが軽く声をかけたとき。
そのたびに、自分の視線がほんの少しだけ動いていた。
(なんで見てたんだ)
自分でも説明できない。
ただ、気づくと目で追っている。
暁月こむぎの方を。
最初は偶然だと思っていた。
同じ教室にいるだけ。
たまたま視界に入るだけ。
そういう“普通”の範囲だと。
でも違った。
テスト中。
こむぎが少し止まった瞬間。
自分のペンも一瞬止まっていた。
(……何やってんだ俺)
そのあと、すぐに気づかれない程度に視線を戻した。
「悠真くんってさ」
ふいに、別のクラスメイトの声を思い出す。
「なんか、こむぎちゃんのことよく見てない?」
そのときは適当に流した。
「気のせいだろ」
それで終わる話だったはずだ。
でも今は違う。
否定しきれない。
廊下の向こうから、笑い声が聞こえる。
朝倉凜空の声だ。
あいつは分かりやすい。
誰とでも話すし、距離も近い。
だからこそ、余計に目に入る。
(あいつは“普通に”近い)
じゃあ自分は何だ。
窓に映る自分の顔は、いつも通り無表情だった。
(別に、変なことはしてない)
そう思う。
でも、
「……なんか違うな」
小さく声が漏れた。
理由は分からない。
ただ一つだけはっきりしている。
この数日間で、こむぎの存在が“背景”じゃなくなっていた。
(気のせいなら、それでいい)
そう思おうとしても。
頭の片隅で、ずっと残っている。
あの集中している横顔とか。
問題に気づいたときの小さな反応とか。
悠真は鞄を持ち上げた。
「……帰るか」
誰もいない教室に、それだけ残す。
でも廊下に出たあとも、違和感は消えなかった。
(俺、なんであいつのこと見てたんだ)
答えはまだ出ない。
ただ一つだけ確かなのは、
もう“ただのクラスメイト”としては見ていない、ということだった。




