第29話 ほどけた帰り道
校門を出た瞬間、空気が少しだけ変わった。
教室の重さが完全に抜けて、夕方の風が軽く頬を撫でる。
朝比奈桃華は大きく伸びをした。
「うわ〜終わった感すごい!」
「まだ結果出てないけどね」
こむぎがすぐに返す。
「それ言わないでよ〜!」
少し後ろから、朝倉凜空が追いついてくる。
「いやでもさ、終わった瞬間が一番気持ちよくない?」
「それは分かる」
「だよね!」
桃華がすかさず言う。
「でもそのあと地獄の結果発表あるんだよね」
「現実やめて」
さらに後ろから、東雲悠真が静かに歩いてくる。
いつも通り無駄のない歩き方。
「……別に、いつも通りだろ」
その一言で空気が少しだけ落ち着く。
「悠真くん、それ一番怖いやつなんだけど」
桃華が顔をしかめる。
4人で並びながら歩く帰り道。
いつもより少しだけゆっくりだった。
こむぎは前を見ながら歩く。
(テスト、終わったんだよね)
まだ実感は薄いけど、体の中の緊張はもうない。
凜空が横を向く。
「こむぎさ、結構できてた感じ?」
「うーん……分かんない」
「それ一番信用できないやつじゃん」
「なんで」
桃華がすかさず入る。
「こむぎは“普通”って言うときだいたい普通じゃない」
「え、そうなの?」
こむぎは少しだけ首をかしげる。
悠真はその会話を聞きながら、少しだけ視線を落とす。
「……まあ、落としてるやつよりは上にいるだろ」
「それ雑すぎない?」
桃華が突っ込む。
でもその言葉で、少しだけ安心したような空気になる。
夕日が少しだけ傾いている。
道の影が長く伸びていた。
凜空が軽く手を後ろに組む。
「結果出るまで、なんかソワソワする時間だよな」
「それが一番長いんだよ」
桃華が即答する。
こむぎは小さく笑った。
(みんな、同じなんだ)
テストの出来も、手応えも、まだ分からない。
でもこの帰り道だけは、少しだけ軽かった。
悠真がぽつりと言う。
「……まぁ、終わったしな」
凜空が笑う。
「それそれ」
桃華が手を振る。
「とりあえず帰ろ!今日は寝る!」
こむぎも頷いた。
「うん」
4人の影が、夕焼けの道にゆっくり伸びていく。
結果はまだ先。
でも今だけは、ただの帰り道だった。




