第28話 静かな教室、ほどけた空気
終わったぁ……」
チャイムが鳴った瞬間、教室のあちこちから一斉に力が抜けた声が上がった。
机に突っ伏す音、椅子を引く音、ため息。
さっきまで張りつめていた空気が、一気にゆるんでいく。
朝比奈桃華は机に顔をつけたまま動かない。
「……脳みそ、もう動かない」
「おつかれ」
こむぎが小さく言うと、桃華は顔だけ少し上げた。
「こむぎ元気すぎない?」
「普通だよ」
「普通ってなに?」
そのやり取りに、少しだけ笑いが混ざる。
前の席では、朝倉凜空が大きく伸びをしていた。
「いやー、最後の問題さ、あれちょっとトラップじゃなかった?」
「引っかかってるのお前だけだろ」
すぐにツッコミが飛ぶ。
「え、マジで?」
「マジ」
教室に小さな笑いが広がる。
後ろでは、東雲悠真が静かにペンをしまっていた。
無駄のない動き。
終わったことを特に言葉にするわけでもない。
ただ、少しだけ肩の力が抜けているのが分かる。
桃華が机から体を起こす。
「ねえこむぎ」
「うん?」
「今回さ、ちょっとだけ……いつもよりはできた気がする」
「いいことじゃん」
「問題は“気がする”ってところなんだよね」
「そこ大事だね」
また少し笑いが起きる。
凜空が通りながらこむぎを見る。
「こむぎはどうだった?」
「うーん……普通、かな」
「普通って一番分かんないやつじゃん」
「そうかも」
凜空は笑って肩をすくめる。
その様子を、悠真は横目で静かに見ていた。
何も言わないけど、視線だけが一瞬だけ動く。
こむぎは窓の外を見る。
曇り空のままなのに、なぜか少しだけ軽く見えた。
(終わったんだ……)
初めての定期テスト。
緊張も、分からなさも、全部詰まっていた数日間。
桃華が勢いよく立ち上がる。
「帰ろ!今日はもう解放!」
凜空も伸びながら続く。
「賛成ー」
悠真は短く。
「……帰るか」
こむぎも小さくうなずいた。
「うん」
教室の扉が開く。
テスト期間は、静かに終わった。




