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第135話 名前決め

 翌日の放課後。


 窓から差し込む夕日が、教室の床を少しずつオレンジ色に染めていた。


 帰り支度を済ませた生徒たちが席を立つ中、A組では文化祭に向けた話し合いが始まろうとしていた。


「じゃあ、今日も続きから始めようか」


 凜空が黒板の前に立ち、昨日までに決まった内容を確認する。


 教室の内装や必要な道具については、ひとまず方向性がまとまっていた。


 今日はその続きとして、まだ決まっていない細かな部分を話し合う予定だった。


「そういえばさ、お化け屋敷の名前ってまだ決めてなかったよね?」


 桃華が思い出したように口を開く。


「あ、そうだった」


「名前か。確かに必要だな」


 クラスメイトたちも、黒板を見ながら頷いた。


「せっかくだし、今日決めちゃう?」


「いいね。何か案ある人!」


 凜空が教室を見渡す。


 けれど、すぐに手が挙がることはなかった。


「うーん……いざ考えると難しいね」


「普通に『お化け屋敷』じゃダメなの?」


「それだとちょっと寂しくない?」


 そんなやり取りに、何人かが小さく笑う。


「じゃあ、『恐怖の館』!」


「なんか聞いたことある名前だな」


「『呪われた教室』は?」


「教室そのものが呪われてるの?」


「そういう設定でも面白そうじゃん!」


 次々と案が出てくるものの、なかなか意見はまとまらない。


 こむぎは桃華の隣で、黒板に書かれていく名前を眺めていた。


 どれもそれらしい名前ではあるけれど、実際に自分たちの教室につけるとなると、少し違う気もする。


「こむぎは何かない?」


「えっ、私?」


「うん。さっきからずっと考えてるでしょ?」


 桃華に言われ、こむぎは黒板から視線を戻した。


「そうだなぁ……」


 少し考えてから、ぽつりと口にする。


「『真夜中の教室』とか……?」


「真夜中の教室?」


「うん。暗い教室の中を歩く感じがして、雰囲気あるかなって」


 桃華は一度その名前を口の中で繰り返し、納得したように頷いた。


「いいじゃん! なんか想像しやすい!」


「ほんと?」


「うん。私は好きだよ」


 その声を聞いた凜空が、黒板の端に新しい候補を書き加える。


「『真夜中の教室』っと。これも候補に入れておこう」


「お、いい感じの名前が増えてきたな」


 その後も、いくつかの案が追加されていった。


 少し不気味なものから、思わず笑ってしまうようなものまで、黒板にはさまざまな名前が並んでいる。


「結構出たね」


「でも、どれにするか迷うなぁ」


 桃華が黒板を見上げながら呟く。


「多数決で決める?」


「それもいいけど、もう少し考えてからでもいいんじゃない?」


 凜空の提案に、クラスメイトたちはそれぞれ頷いた。


「じゃあ、今日出た案は残しておこう。次の話し合いで決めようか」


「はーい!」


 話し合いが終わると、教室には帰り支度をする音が戻ってきた。


 こむぎも鞄を持ち、桃華と一緒に席を立つ。


「名前、どれになるんだろうね」


「まだ決まってないけど、ちょっと楽しみ」


「こむぎの案になるかもしれないよ?」


「それはどうかなぁ」


 二人はそんなことを話しながら、教室を後にした。


 まだ名前すら決まっていないお化け屋敷。


 けれど、黒板に並んだいくつもの候補を思い返すと、少しずつ自分たちの出し物が形になっているように感じられた。


 文化祭までの時間は、まだ残っている。


 これからどんな教室になっていくのか。


 こむぎはそんなことを考えながら、桃華と並んで廊下を歩いていった。

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