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第127話 翠の鬼姫

放課後。


こむぎと桃華は、体育館へ向かうため商店街を歩いていた。


「今日もここ通っていこう。」


「うん。」


二人が歩いていると、前の方から大きな声が聞こえてきた。


「だから、あたしはやってないって!」


「嘘つくなよ!」


「嘘じゃない!」


こむぎと桃華が足を止める。


「……何だろ?」


桃華が小さな声で言う。


「ちょっと騒がしいね。」


二人は少し離れた場所から様子を見る。


商店街の広い場所に、人が集まっていた。


その中心にいたのは――。


「あ……。」


こむぎが気づく。


緑色のメッシュが入った少女。


昨日まで何度か会った、あの少女だった。


少女の前には、男子中学生が三人いる。


「お前がやったんだろ。」


男子の一人が言う。


「やってないって言ってるじゃん。」


少女は面倒そうに答える。


「じゃあ、なんでそこにいたんだよ。」


「たまたまいただけ。」


「昨日も俺たちに突っかかってきただろ。」


「そっちが絡んできたんでしょ。」


「そういうところがムカつくんだよ!」


男子が苛立ったように叫ぶ。


少女はため息をつく。


「知らないよ。」


「お前……!」


男子が少女に向かって拳を振る。


けれど――。


少女は身体を横へずらして、拳をかわした。


「……。」


拳が空を切る。


「遅い。」


少女が呟く。


「なっ……!」


男子が振り返る。


「ふざけんな!」


再び男子が向かっていく。


今度は少女も逃げなかった。


男子が勢いよく近づいてきた瞬間、少女は相手の動きを見て身体をひねる。


そして、その勢いを利用するように受け流した。


「うわっ!」


男子の身体が大きく傾く。


そのままバランスを崩して、地面に倒れた。


「……!」


周囲から驚きの声が上がる。


少女は倒れた男子を見下ろした。


「だから、やめとけばいいのに。」


男子はすぐに立ち上がる。


「この……!」


今度は別の男子が前へ出る。


「おい!」


少女は振り返る。


男子が勢いよく向かってくる。


少女はその動きをかわし、再び相手の勢いを利用して受け流す。


男子も地面に転がった。


「……。」


こむぎと桃華は、離れた場所からその様子を見ていた。


二人とも何も言わない。


ただ、目の前で起きていることに驚いていた。


男子たちは立ち上がろうとする。


「まだやる?」


少女が聞く。


「……。」


男子たちは悔しそうに少女を見る。


それでも、一人が再び向かっていく。


少女はため息をついた。


「仕方ないなぁ。」


また相手の攻撃をかわす。


そして、今度は勢いを利用して相手を受け流した。


男子は大きくバランスを崩し、そのまま地面に倒れる。


「……。」


しばらくしても、男子は起き上がらない。


「おい!」


仲間の男子が駆け寄る。


「大丈夫か!?」


返事がない。


「気絶してる……。」


周囲がざわめく。


大人たちも慌てて近づいてくる。


「誰か救急車を!」


「分かった!」


商店街が一気に騒がしくなる。


少女は倒れた男子を見ながら、少しだけ息を吐いた。


そして、男子たちの方へ振り返る。


「ねえ。」


残った男子二人が顔を上げる。


少女は淡々とした声で言った。


「今回は手加減してあげてたけど。」


少しだけ間を置く。


「次からは、容赦しないからね。」


男子たちの顔が固まる。


少女はそれ以上何も言わなかった。


鞄を肩にかける。


「じゃあね。」


そのまま、一人で歩き出す。


誰にも呼び止められることなく、夕方の商店街を抜けていく。


緑色のメッシュが、夕日の中で揺れていた。


こむぎと桃華は、遠ざかっていく背中を黙って見つめる。


「……。」


「……。」


二人とも、何も言えなかった。


ただ――。


昨日まで噂でしか知らなかった「翠の鬼姫」という存在が、今ははっきりと目の前に残っていた。

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