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第126話 噂の少女

翌日。


昼休みの教室。


こむぎは昨日のことを思い出していた。


商店街で会った少女。


緑色のメッシュ。


少しぶっきらぼうな話し方。


「……やっぱり気になる。」


「何が?」


隣でお弁当を食べていた桃華が顔を上げる。


「昨日の子。」


「ああ、翠の鬼姫かもしれないって子?」


「うん。」


こむぎは頷く。


「本当にあの子なのかな。」


「私も気になる。」


桃華も少し考える。


「でも、昨日は普通に自動販売機で飲み物買ってただけだったよね。」


「そうなんだよね。」


「喧嘩が強いって感じもしなかったし。」


「うん。」


二人が話していると、後ろの席から声が聞こえた。


「その話?」


振り返ると、クラスメイトがこちらを見ていた。


「翠の鬼姫の話なら、たぶんその子だと思うよ。」


「え?」


こむぎが驚く。


「知ってるの?」


「直接話したことはないけど、噂は結構聞く。」


「どんな噂?」


桃華が聞く。


「学校で問題起こして先生に呼び出されたとか。」


「うわ……。」


桃華が苦笑する。


「あと、他校の子と揉めたとか。」


「それ、本当にその子が悪かったのかな?」


こむぎが聞く。


「そこまでは分からないよ。」


クラスメイトは肩をすくめる。


「ただ、あの子が関わってるってだけで面倒なことになるって言われてる。」


「……。」


こむぎは少し黙る。


噂だけでは、何が本当なのか分からない。


「でも、名前まで『翠の鬼姫』って呼ばれてるくらいなら、かなり有名なんだね。」


桃華が言う。


「そうみたい。」


その日の放課後。


こむぎと桃華は部活へ向かうため、昨日と同じ商店街を通っていた。


「今日はいるかな。」


桃華が周りを見る。


「分からないけど……。」


こむぎも辺りを見渡す。


すると――。


「いた。」


桃華が小さく声を上げる。


商店街の少し先。


昨日の少女がいた。


今日は一人ではない。


少女の前には、同じくらいの年齢の男子が二人立っている。


「だから、前にも言っただろ。」


男子の一人が言う。


「こっちには関わってくんなって。」


少女は面倒そうに腕を組んでいる。


「それ、こっちの台詞なんだけど。」


「は?」


「先に絡んできたの、そっちじゃん。」


少女は一歩も引かない。


「俺たちは何もしてないだろ。」


「じゃあ、あたしの友達にちょっかい出したのは誰?」


「……。」


男子たちが黙る。


桃華がこむぎを見る。


「……なんか揉めてるね。」


「うん。」


こむぎも少し不安そうに見る。


すると、男子の一人が少女に近づく。


「調子乗ってんじゃねえぞ。」


少女は動かない。


「何?」


「……。」


男子が何か言おうとした、その時。


「ちょっと待って。」


こむぎが思わず声をかけた。


「こむぎ!?」


桃華が驚く。


少女もこちらを見る。


「……あんた。」


昨日の少女だった。


「昨日の。」


「うん。」


こむぎは少し緊張しながら近づく。


「何してるの?」


「別に。」


少女は男子たちを見る。


「こいつらが勝手に絡んできただけ。」


「おい!」


男子が声を上げる。


「俺たちは――」


「じゃあ、帰れば?」


少女が遮る。


「話すことないなら。」


「……。」


男子たちは顔を見合わせる。


「もういい。」


一人がそう言って、もう一人を連れて歩き出した。


「覚えとけよ。」


去り際にそう言い残す。


少女はため息をつく。


「……面倒くさ。」


「大丈夫?」


こむぎが声をかける。


「平気。」


少女はあっさり答える。


「慣れてるから。」


「慣れてるって……。」


桃華が驚く。


少女は二人を見る。


「それより、なんでまたいるの?」


「部活に行く途中。」


こむぎが答える。


「そっか。」


少女は少しだけ笑う。


「じゃあ、気をつけて帰りな。」


「うん。」


少女はそのまま歩き出す。


こむぎはその背中を見つめる。


昨日よりも、少しだけ印象が変わった気がした。


「こむぎ。」


桃華が小声で言う。


「うん。」


「やっぱり、ただ怖いだけの子じゃなさそう。」


「……私もそう思う。」


こむぎは頷く。


緑色のメッシュが、夕方の光の中で揺れていた。


その姿は、昨日聞いた噂とは少し違って見えた。

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