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第120話 少し近くなった距離

新しい部長と副部長が決まってから、数日。


バスケットボール部は、少しずつ新しい体制にも慣れ始めていた。


「一年生、アップ始めるぞ!」


湊の声が体育館に響く。


「はい!」


一年生たちが一斉に返事をする。


こむぎと桃華も、いつものようにマネージャーの準備を始めた。


ボトルを並べ、タオルを準備する。


夏大会前とは少し違う体育館の雰囲気にも、二人は少しずつ慣れてきていた。


「こむぎ、そっち終わった?」


桃華が声をかける。


「うん。こっちは大丈夫。」


「じゃあ、こっち手伝うね。」


「ありがとう。」


二人で手分けしながら準備を進めていく。


その少し離れた場所では、一年生たちがアップをしていた。


「真斗、ちゃんとストレッチしろよ。」


蒼が声をかける。


「分かってるよ。」


真斗は笑いながら身体を伸ばす。


「蒼こそ、昨日足つってたじゃん。」


「それは言うなって!」


颯馬が笑う。


「朝から元気だな、お前ら。」


佐久が呆れたように言う。


「佐久も混ざればいいじゃん。」


「遠慮しとく。」


そんなやり取りをしながら、練習が始まっていく。


こむぎはボトルを確認しながら、選手たちの様子を見ていた。


しばらくすると、一年生の休憩時間になった。


「こむぎちゃん。」


真斗が近づいてくる。


「ん?」


「ボトルもらっていい?」


「あ、うん。はい、真斗くん。」


こむぎがボトルを渡す。


「ありがとう。」


真斗は受け取って、一口飲む。


「……なんか、まだ慣れないね。」


「何が?」


「こむぎちゃんって呼ぶの。」


真斗が少し笑う。


「今までずっと『こむぎさん』だったから。」


「私も、真斗くんって呼ぶのは慣れてるけど……。」


こむぎが少し考える。


「タメ口で話すのは、まだ変な感じするね。」


「あー、それは俺も分かる。」


真斗が笑う。


「ずっと敬語で話してたからね。」


「うん。」


「でも、せっかくタメ口でいいってことになったし、少しずつ慣れていけばいいよね。」


「そうだね。」


こむぎも笑う。


「じゃあ、もう少し休んだら戻るね。」


「うん。頑張って!」


「ありがとう!」


真斗はコートへ戻っていった。


その背中を、こむぎは少しだけ目で追った。


「……。」


「こむぎ?」


桃華が隣から声をかける。


「なに?」


「なんか嬉しそう。」


「そう?」


「うん。」


桃華がにこにこする。


「真斗くんと仲良くなってきたね。」


「そうかな。」


こむぎは少し考える。


「でも、前より話しやすくなった気はする。」


「でしょ?」


「うん。」


こむぎも笑う。


その頃、コートでは練習が再開していた。


「真斗、パス!」


「はい!」


凜空へボールが渡る。


凜空がそのまま走り込み、シュートを決める。


「ナイス!」


「ありがとう!」


「次、俺!」


蒼がボールを受け取る。


真斗もすぐに動き出した。


「いい動きしてるな。」


湊が声をかける。


「ありがとうございます!」


真斗が返事をする。


「真斗、もう少し周り見てみろ。」


「はい!」


湊のアドバイスを聞きながら、真斗は次のプレーへ移る。


少しずつ。


新しい部長のもとでの練習にも慣れていく。


しばらくして、再び休憩に入る。


真斗がコートの端に座っていると、こむぎが近づいてきた。


「真斗くん、ボトル。」


「ありがとう。」


真斗が受け取る。


「今日は結構動いてるね。」


こむぎが言う。


「久しぶりだからね。」


「疲れた?」


「ちょっとだけ。」


真斗が笑う。


「でも楽しいよ。」


「よかった。」


こむぎも笑う。


「こむぎちゃんは?」


「私は大丈夫。」


「そっか。」


真斗はボトルを置く。


「そういえば、今日で夏休み終わりだね。」


「あ、そうだった。」


こむぎが少し驚く。


「なんか、あっという間だったなぁ。」


「うん。」


真斗も頷く。


「でも、学校始まったらまたみんなに会えるね。」


「それは楽しみかも!」


こむぎが笑う。


「教室でも部活でも、またいつも通りだね。」


「そうだね。」


真斗が笑う。


「じゃあ、最後まで頑張ろうかな。」


「うん。頑張って!」


真斗は立ち上がる。


「じゃあ、また練習でね。」


「うん。」


真斗はコートへ戻っていった。


こむぎも仕事へ戻る。


少し離れた場所から桃華が二人を見ていた。


「……。」


「桃華?」


「ううん、なんでもない!」


桃華は笑った。


午後の練習も終盤に入る。


「今日はここまで!」


湊の声が響く。


「ありがとうございました!」


全員が一斉に頭を下げる。


片付けが始まる。


こむぎはボトルを集め、桃華はタオルをまとめる。


「こむぎちゃん。」


真斗がまた近づいてきた。


「なに?」


「今日もありがとう。」


「どういたしまして。」


「じゃあ、またね。」


「うん。またね。」


真斗は笑って、そのまま蒼たちのところへ戻っていく。


こむぎはその背中を見ながら、少しだけ笑った。


「またね、か。」


桃華が隣に来る。


「どうしたの?」


「ううん。」


こむぎは首を横に振る。


「なんか、普通に嬉しいなって。」


「そっか。」


桃華も笑う。


体育館の片付けを終える。


外へ出ると、夏の夕方の空が広がっていた。


「帰ろうか。」


「うん!」


二人は並んで歩き始める。


その少し後ろでは、男子たちも帰る準備をしていた。


「真斗、今日なんか機嫌よくない?」


蒼が聞く。


「そう?」


「なんとなく。」


「別に普通だよ。」


真斗は笑って答える。


「じゃあ帰ろうか。」


「おう。」


みんなで体育館を後にする。


夏休みも、今日で終わり。


楽しかった祭り。


部活で過ごした時間。


そして、新しくできた関係。


いろんな出来事があった夏休みだった。


こむぎは歩きながら、空を見上げる。


「明日から学校かぁ。」


「楽しみじゃん!」


桃華が笑う。


「うん!」


こむぎも笑った。


長かったようで、短かった夏休み。


その最後の日が、ゆっくりと暮れていく。


そして――。


こむぎたちの新しい日常が、また始まろうとしていた。

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