第115話 祭りの明かり
しばらくして。
こむぎの呼吸は、少しずつ落ち着いていった。
桃華は、こむぎのそばに座ったまま様子を見ている。
「……大丈夫?」
こむぎはゆっくり目を開ける。
「……うん。」
まだ少しぼんやりしているものの、先ほどよりは落ち着いていた。
「よかった……。」
桃華がほっと息を吐く。
「急に倒れたから、びっくりしたよ。」
「……ごめん。」
「謝らなくていいって。」
桃華は笑う。
「無理しないでね。」
「うん。」
こむぎは小さく頷いた。
璃空が周囲を見渡す。
「もう少し休んでから戻ろうぜ。」
「うん。」
悠真も頷く。
「立てそう?」
「たぶん……。」
こむぎはゆっくり身体を起こす。
桃華がすぐに手を差し出した。
「ゆっくりでいいよ。」
「ありがとう。」
こむぎは桃華の手を借りながら立ち上がる。
一度だけ足元がふらついた。
「大丈夫?」
璃空がすぐに声をかける。
「うん。もう大丈夫。」
こむぎは笑ってみせる。
「じゃあ、戻ろう。」
四人はゆっくりと歩き始めた。
今度は、こむぎが一番後ろになることはなかった。
桃華がこむぎの隣を歩く。
その少し前を璃空と悠真が歩いている。
暗い道を抜ける。
すると――。
「……。」
こむぎの目の前に、祭りの明かりが広がった。
屋台の明かり。
人々の声。
遠くから聞こえる祭囃子。
さっきまでいた場所なのに、少しだけ安心する。
「戻ってきたね。」
桃華が笑う。
「うん。」
こむぎも小さく笑った。
「よかった。」
璃空が振り返る。
「もう少しだけ見てから帰るか?」
「うん!」
桃華が答える。
「最後まで楽しもう!」
こむぎも頷く。
「私も、もうちょっと見たい。」
「じゃあ決まりだな。」
四人は再び屋台の並ぶ通りを歩き始めた。
桃華は特賞でもらったぬいぐるみを抱えている。
こむぎはその隣を歩く。
「ねえ、こむぎ。」
「ん?」
「さっきのこと、無理に話さなくていいからね。」
桃華が前を向いたまま言った。
こむぎは少し驚いたように桃華を見る。
「……うん。」
それだけ答える。
桃華はそれ以上何も聞かなかった。
ただ、いつも通りに歩く。
「そういえば、あのお店まだやってるかな?」
「どれ?」
「さっき見たチョコバナナ!」
「まだ食べるの!?」
こむぎが驚く。
「だっておいしかったんだもん!」
「もうお腹いっぱいじゃないの?」
「大丈夫!」
「本当に?」
「大丈夫!」
桃華は笑う。
その笑顔を見て、こむぎも自然と笑った。
「じゃあ、最後に一本だけね。」
「やった!」
四人は再び屋台の前へ向かっていく。
さっきまでの出来事を、少しずつ忘れられるように。
夏祭りの夜は、まだ終わっていなかった。




