第110話 射的
「次、どこ行く?」
璃空が周りを見渡しながら尋ねる。
「うーん……。」
こむぎは金魚の入った袋を持ったまま、屋台を眺めていた。
その隣では、桃華も楽しそうに辺りを見回している。
「ねえ、あれやろうよ!」
桃華が指差した。
「ん?」
こむぎがそちらを見る。
そこには、景品がたくさん並んだ射的の屋台があった。
「射的?」
「うん!」
桃華が目を輝かせる。
「面白そう!」
「桃華、当てられるの?」
こむぎが少し疑うような目を向ける。
「当てられるよ!」
「さっき金魚すくいで一回目にポイ破ってたけど。」
「それは関係ないでしょ!」
「あると思うけどなぁ。」
「こむぎ〜!」
桃華が頬を膨らませる。
「じゃあ、私が一番いい景品取ったら認めてよ!」
「いいよ。」
こむぎは笑う。
「じゃあ頑張って!」
「任せて!」
桃華は射的の台の前に立った。
店員からコルク銃を受け取る。
「よーし……。」
桃華は景品をじっと見つめる。
「……あれにしよ。」
桃華が狙いを定めたのは、少し離れた場所にある大きめの景品だった。
「それ、結構難しくない?」
こむぎが言う。
「大丈夫大丈夫!」
桃華は自信満々に銃を構える。
そして――。
パァン!
コトン。
一発で景品が倒れた。
「……え?」
こむぎが固まる。
「取れた!」
桃華は何事もなかったかのように景品を受け取る。
「え、今一発で当てたよね?」
「うん!」
「すご……。」
こむぎが景品を見る。
「じゃあ、次はこれ!」
桃華が別の景品を指差す。
「また?」
「もちろん!」
パァン!
コトン。
また一発。
「……。」
こむぎは無言になる。
「どうしたの?」
「桃華、なんでそんなに上手いの?」
「ん?」
桃華は少し考える。
「あー、私、昔からこういう狙う系のやつ得意なんだよね!」
「昔から!?」
「うん!」
桃華は楽しそうに笑う。
「こういうの見つけると、ついやりたくなっちゃうんだよね!」
「じゃあ、射的のためにお祭り来たみたいじゃん……。」
「そんなことないよ!」
桃華は笑いながら、また景品に狙いを定める。
パァン!
コトン。
「……。」
こむぎはもう何も言えなかった。
「桃華、すごいな。」
璃空も思わず感心する。
「でしょ?」
桃華は得意げに胸を張る。
「じゃあ次、こむぎもやってみる?」
「やる!」
こむぎは金魚の袋を桃華に預け、射的の台へ向かった。
「頑張れ、こむぎ!」
「うん!」
こむぎは銃を構える。
「狙って……。」
パァン!
しかし、コルクは景品の横を通り過ぎた。
「あっ、外れた!」
「惜しい惜しい!」
桃華が応援する。
「もう一回!」
こむぎはもう一度狙う。
パァン!
今度は景品に当たった。
「当たった!」
「おお!」
桃華が拍手する。
「あとちょっと!」
こむぎは集中して狙いを定める。
そして――。
パァン!
コトン。
「やった!」
「すごい!」
桃華が嬉しそうに笑う。
「取れた!」
こむぎは景品を受け取る。
「……でも桃華、やっぱりすごいね。」
「えへへ!」
桃華は満足そうに笑った。
「じゃあ次、俺もやる。」
悠真が射的の台の前に立つ。
「悠真も?」
こむぎが振り向く。
「うん。」
悠真はコルク銃を受け取る。
「頑張って!」
桃華が声をかける。
「……。」
悠真は景品を見つめ、狙いを定める。
パァン!
コトン。
「おお!」
こむぎが声を上げる。
「一発で取った!」
「すごいじゃん!」
桃華も笑う。
「たまたま。」
悠真は淡々と答える。
「いやいや、十分すごいよ!」
こむぎが笑う。
その横で、桃華が少し得意げな顔をする。
「でも私の方が上手いけどね!」
「張り合うところなの?」
こむぎがツッコむ。
「もちろん!」
桃華は笑った。
「俺も負けてられないな。」
最後に璃空も射的に挑戦する。
「頑張って!」
こむぎが応援する。
璃空は慎重に狙いを定める。
パァン!
景品が揺れる。
「よし!」
もう一発。
パァン!
しかし、景品は倒れない。
「くそ……。」
璃空が悔しそうに呟く。
「もう一回!」
三発目。
パァン!
景品が大きく揺れる。
「いける!」
四発目。
パァン!
コトン。
「よっしゃ!」
璃空が拳を握る。
「やったじゃん!」
こむぎが笑う。
「おう!」
四人はそれぞれ景品を手に、屋台を離れた。
「楽しかったー!」
桃華が景品を抱えながら笑う。
「桃華、ほとんど射的で遊んでたじゃん。」
「だって得意なんだもん!」
「昔から?」
「そうそう!」
桃華は楽しそうに笑った。
気づけば、夜はすっかり深くなっていた。
祭りの明かりが、夜の街を明るく照らしている。
「まだまだ回りたい!」
桃華が言う。
「私も!」
こむぎも頷く。
「じゃあ次は――。」
璃空が前を見る。
「ちょっとあっち行ってみない?」
その先には、屋台が途切れて細い道が続いていた。
「ん?」
こむぎもそちらを見る。
「何かあるのかな?」
「行ってみようぜ。」
四人は、明るい屋台の並ぶ通りから、少し離れた場所へ歩き出した。
祭りの音が、少しずつ遠くなっていく。
夜の街には、まだたくさんの人がいる。
けれど――。
その細い道の先には、屋台の明かりがほとんど届いていなかった。




