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第109話 金魚すくい

四人は、金魚すくいの屋台の前で足を止めた。


水槽の中では、赤や白、黒い金魚たちがゆっくりと泳いでいる。


「わぁ……!」


こむぎが水槽を覗き込む。


「いっぱい泳いでる!」


「どの子にする?」


桃華も楽しそうに水槽を覗く。


「うーん……。」


こむぎは真剣な顔で金魚を見つめる。


「この子!」


こむぎが指差したのは、赤と白の模様が入った金魚だった。


「かわいい!」


「じゃあ、こむぎはあの子狙いね。」


桃華が笑う。


「うん!」


「じゃあ私も!」


桃華は店員からポイを受け取る。


「よーし……。」


桃華が水槽にポイを入れる。


「そーっと……。」


金魚の動きをじっと見ながら、ポイを近づける。


「今!」


すくい上げる。


しかし――。


「……あ。」


ポイが破れた。


「早っ!」


こむぎが思わずツッコむ。


「まだ一匹もすくってないよ!?」


「だって逃げたんだもん!」


「金魚すくいなんだから逃げるよ!」


桃華は悔しそうに水槽を見つめる。


「もう一回!」


「まだできるよ。」


店員が新しいポイを渡してくれる。


「今度こそ……!」


桃華は再び挑戦する。


今度はさっきより慎重に金魚へ近づける。


「……。」


「……。」


こむぎも隣で息を止めるように見守る。


「そこ!」


桃華がポイを動かす。


そして――。


「やった!」


水面から金魚をすくい上げた。


「すごい!」


こむぎが拍手する。


「見て! 取れた!」


桃華は嬉しそうに金魚を見せる。


「よかったね。」


悠真も小さく笑う。


「じゃあ次、こむぎ。」


「うん!」


こむぎもポイを受け取った。


さっき選んだ赤と白の金魚を探す。


「……いた!」


水槽の端を泳いでいる。


こむぎはゆっくりとポイを近づける。


「そーっと……。」


金魚が少し動く。


「待って……。」


さらに近づける。


「今!」


ポイを水の中へ入れ、金魚の下へ滑り込ませる。


そして――。


「……!」


こむぎがゆっくり持ち上げる。


「取れた!」


「おお!」


璃空が声を上げる。


「やったじゃん!」


「えへへ!」


こむぎは嬉しそうに笑った。


そのまま金魚を袋に入れてもらう。


「かわいい……。」


こむぎは袋を両手で持ちながら、嬉しそうに金魚を眺める。


「名前つける?」


桃華が聞く。


「名前?」


「うん。」


こむぎは少し考える。


「……とまとちゃん!」


「赤いからか!」


桃華が笑う。


「いい名前でしょ?」


「まぁ……分かりやすいけど。」


「じゃあとまとちゃん!」


こむぎは満足そうに頷いた。


その隣で、璃空が水槽を覗き込む。


「俺もやってみようかな。」


「璃空も?」


こむぎが振り向く。


「おう。」


璃空はポイを受け取る。


「こういうの得意そう。」


桃華が言う。


「任せろ。」


璃空は自信ありげに水槽へ向かう。


そして、一匹の金魚に狙いを定める。


「……。」


慎重にポイを動かす。


「おっ。」


金魚がポイの上に乗った。


「そのまま!」


こむぎが応援する。


「よし……!」


璃空が持ち上げる。


しかし――。


ポイが破れ、金魚は水槽へ戻ってしまった。


「あー!」


璃空が声を上げる。


「残念!」


こむぎが笑う。


「お前、笑ってるだろ。」


「だって璃空、さっき自信満々だったから。」


「くそ……。」


璃空は悔しそうに笑う。


「もう一回だ。」


「頑張って!」


四人の笑い声が、屋台の並ぶ通りに響く。


金魚すくいを終えた頃には、空はすっかり暗くなっていた。


祭りの明かりが、夜の街を明るく照らしている。


「次、どうする?」


璃空が聞く。


「うーん……。」


こむぎが周りを見渡す。


たくさんの屋台。


たくさんの人。


聞こえてくる祭囃子。


「もっと見て回りたい!」


「じゃあ、まだまだ行こう!」


桃華が笑う。


「おー!」


四人は再び歩き出した。


こむぎは金魚の入った袋を大切そうに持ちながら、楽しそうに笑っていた。


まだ誰も知らない。


この夏祭りの夜が、こむぎにとって忘れられない一日になることを。

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