第108話 いろんな屋台
「花火、きれい……!」
こむぎは夜空を見上げながら、わたあめを片手に目を輝かせていた。
大きな花火が夜空に広がり、少し遅れて音が響いてくる。
「すごいなぁ……。」
桃華も空を見上げる。
「まだ始まったばっかりなのに、もう花火上がるんだね。」
「たぶん最初のやつじゃない?」
璃空が言う。
「じゃあ、もっと大きいのも上がるのかな?」
こむぎが期待するように尋ねる。
「どうだろうな。」
「楽しみ!」
こむぎは嬉しそうに笑った。
花火が終わると、再び屋台の明かりが目に入る。
「……。」
桃華が屋台を見つめる。
「どうしたの?」
こむぎが聞く。
「……お腹すいた。」
「さっきわたあめ食べたじゃん!」
「わたあめはお腹いっぱいにならないもん。」
「いや、なるでしょ!」
「ならないよ〜!」
桃華は笑いながら屋台を見渡す。
「何か食べよ!」
「もう食べるの?」
「だってお祭りだよ!?」
「その理屈は分かんないよ……。」
こむぎは呆れたように笑う。
「じゃあ何食べる?」
璃空が聞く。
「んー……。」
桃華は屋台を見渡す。
そして――。
「あっ!」
桃華が指を差した先には、たこ焼きの屋台があった。
「たこ焼き食べたい!」
「たこ焼き!?」
こむぎが驚く。
「うん!」
「さっきわたあめ食べたばっかりなのに!?」
「別腹!」
「たこ焼きは別腹じゃないでしょ!」
「いいの!」
桃華は笑顔で屋台へ向かっていく。
「ほら、行こ!」
「もう……。」
こむぎも苦笑しながら後を追う。
「四人分ください!」
桃華が元気よく注文する。
「ちょっと待っててね。」
店員がたこ焼きを準備していく。
その間、桃華は鉄板をじっと見つめていた。
「……。」
「そんなに見ても早くはならないよ?」
こむぎが笑う。
「分かってるけど、早く食べたい!」
「食いしん坊だなぁ……。」
「何か言った?」
「何も言ってません。」
こむぎはすぐに目を逸らした。
やがて、四人分のたこ焼きが完成する。
「はい、お待たせ。」
「ありがとうございます!」
桃華が受け取る。
「熱いから気をつけてね。」
「はーい!」
桃華は一つを箸で取る。
そして――。
「……あつっ!」
「だから言ったじゃん!」
こむぎが笑う。
「ふー……ふー……。」
桃華は必死に冷ます。
ようやく食べられる温度になり、一口。
「……おいしい!」
満面の笑み。
「よかったね。」
こむぎも笑う。
「うん!」
桃華は嬉しそうに次のたこ焼きへ箸を伸ばす。
「ちょっと待って、食べるの早くない?」
「おいしいから!」
「だからって急ぎすぎ!」
「大丈夫だって!」
「本当に?」
こむぎが心配そうに見る。
その隣では、悠真がゆっくりとたこ焼きを食べていた。
「悠真、食べないの?」
「食べてる。」
「一個しか減ってないよ?」
「熱いから。」
「なるほど。」
こむぎは納得したように頷く。
その横で、桃華はすでに二個目を食べ終えていた。
「……桃華。」
「ん?」
「悠真より食べるの早いよ。」
「えへへ。」
「褒めてないからね?」
桃華は楽しそうに笑った。
四人でたこ焼きを食べながら、他愛のない話をする。
普段の学校とは違う。
制服でもない。
教室でもない。
ただ、夏の夜に四人で歩いている。
それだけなのに――。
こむぎには、それがとても楽しかった。
「次、どこ行く?」
璃空が聞く。
「んー……。」
桃華が屋台を見渡す。
そして、一つの屋台を見つけた。
「あっ!」
「今度は何?」
こむぎが聞く。
「金魚すくい!」
「また食べ物かと思った。」
「なんで!?」
「いや、桃華なら次も何か食べるのかなって。」
「ひどい!」
二人は顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、金魚すくいやろ!」
「うん!」
四人は金魚すくいの屋台へ向かって歩き出す。
夏祭りの夜は、まだまだこれからだった。




