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第107話 夏祭り会場

会場に近づくにつれて、祭囃子の音がどんどん大きくなっていく。


人の声。

屋台から聞こえる呼び込みの声。

そして、甘い匂いや香ばしい匂い。


「わぁ……!」


こむぎは思わず足を速めた。


「こむぎ、走ったら転ぶよ!」


桃華が慌てて声をかける。


「だ、大丈夫だよ!」


そう言いながらも、こむぎの足取りは明らかに軽い。


「ほら、あそこ!」


こむぎが指を差す。


そこには、色とりどりの屋台が並んでいた。


「たこ焼き!」


「焼きそばもある!」


「りんご飴!」


「かき氷もあるよ!」


次々と屋台を見つけるたびに、こむぎの目が輝いていく。


「……こむぎ、完全に子どもじゃん。」


悠真が呟く。


「子どもじゃないもん!」


こむぎが振り返る。


「高校生だもん!」


「そこじゃないだろ。」


「え?」


「いや、なんでもない。」


悠真は小さく笑った。


その横で、璃空が屋台を眺めながら言う。


「最初、どこ行く?」


「うーん……。」


こむぎは腕を組んで悩み始める。


たこ焼き。

焼きそば。

かき氷。

りんご飴。


どれも食べたい。


「……全部!」


「多いな!」


璃空が思わずツッコむ。


「だってお祭りだよ!?」


「まぁ、それもそうか。」


璃空は笑った。


「じゃあ、まず何か食べようぜ。」


「賛成!」


四人は屋台の並ぶ通りへ入っていく。


すると――。


「わっ!」


突然、こむぎの足が止まった。


「どうした?」


璃空が振り返る。


こむぎが見ていたのは、一軒の屋台だった。


「……あれ!」


そこには、たくさんのカラフルな袋が並んでいる。


「わたあめ!」


こむぎの目が完全に輝いていた。


「食べたいの?」


桃華が笑う。


「うん!」


こむぎは即答した。


「じゃあ買おっか。」


「やったー!」


こむぎは嬉しそうに屋台へ駆け寄る。


「すみませーん!」


店員に声をかけ、こむぎは色とりどりのわたあめを見比べる。


「どれにしよう……。」


「こむぎなら水色じゃない?」


桃華が言う。


「水色!」


こむぎは迷うことなく決めた。


「これ!」


水色のわたあめを受け取ると、こむぎは満面の笑みを浮かべる。


「かわいい!」


「浴衣と同じ色だね。」


桃華が笑う。


「ほんとだ!」


こむぎは嬉しそうにわたあめを眺める。


その様子を見ていた璃空も、自然と笑顔になった。


「よかったな。」


「うん!」


こむぎが笑う。


その笑顔を見て――。


璃空は一瞬だけ、黙った。


胸の奥が、少しだけ熱くなる。


「……。」


「璃空?」


「ん?」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。」


璃空は笑って誤魔化した。


「それより、次どこ行く?」


「えーっと……。」


こむぎはわたあめを持ったまま、再び屋台を見渡す。


「次は――」


その時。


ドンッ!


「わっ!」


突然、大きな音が響いた。


「な、何!?」


こむぎが驚いて空を見上げる。


夜空に、大きな花火が咲いた。


「……!」


四人とも、思わず足を止める。


色鮮やかな光が、夜空いっぱいに広がっていく。


「花火……。」


桃華が呟く。


「きれい……!」


こむぎも空を見上げる。


その横顔を、璃空は静かに見つめていた。


夏祭りは、まだ始まったばかりだった。

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