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第8話 炎の中の記憶

 カイルは意識を失った。



 暗闇の底に沈んでいた。



 炎だった。



 ルグランドの王宮を出て三日。宰相の屋敷の正門を蹴り開けた時には、二階の書庫から火が噴いていた。


 書庫の扉はすでに開いていた。宰相が壁にもたれて崩れかけていた。


 宰相が床に散らばった書物の中から革表紙の一冊を掴み取って、カイルに差し出した。見覚えのない文字が刻まれている古い書だった。



「これを持って、逃げなさい」



 膝をついた。宰相の骨が浮いた指がカイルの手首を掴んだ。



「陛下の瞳を、覚えていますか」



 覚えている。三日前、謁見の間で父と目が合った時に見た、瞳の奥の赤い筋。あの色。



「覚えています」



 宰相の手が離れた。



「殿下は正しかった」



 宰相の瞼が閉じ、手が落ちた。



 天井板が燃え始めていた。古代書を胸に押し込んで裏門から夜風の中に飛び出すと、屋敷の正門の向こうに松明の列が並んでいた。


 王宮の近衛兵だった。



「王子カイルを捕縛せよ。国家反逆の罪により」



 走った。古代書の角が胸骨に当たって、走るたびに痛んだ。



 足がもつれた。



 視界が、暗くなった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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