第79話 天枝の塔
別邸に戻って、作戦卓を囲んだ。ガーレンが、王城で押収した帳簿を広げた。
ミナとトールが城内で確保したもの。結社の運営記録。
「侍従長は片手を落とされたまま行方不明。マヌエルの手の者が侍従長を運び出したと見ていい」
ガーレンが淡々と前提を確認してから、帳簿の最新ページを指で叩いた。
「ここだ。結社員への次の移動先指令。『霧の谷・天枝の塔へ・最優先・期日二週』」
「『塔守の沈黙を確認次第、核へ』。どういう意味かしら」
シャルロットが眉を寄せた。
ガーレンが続けた。
「子供の発掘要員も塔へ移送中との記録がある。攫われた子達が、そこにいる可能性がある」
ミナの呼吸が止まったように見えた。
修道院出身の彼女にとって、子供が攫われているという言葉は、重いはずだ。
「子供達が、その塔に」
カイルが腕を組んだ。
「天枝の塔。聞いたことがある、浮遊する古代遺跡だな」
胸の奥で、古い記憶が動いた。
天枝の塔。
塔守は古代の防衛機能。
あれは私が、前世で封じた場所だ。
最上層に何かを閉じ込めた。
「核」と書かれた何か。
私自身が封印をした。
ノクスが足元から私だけに声を寄越した。
「気付いてるな。あそこは、お前自身の手で封印をした塔だ」
(封印が、解けかけている)
「レガリア期の重要遺構よ。私が魔法陣の構造を知っている」
シャルロットが双剣を椅子の背に立てかけたまま、口の端を上げた。
「あんたが構造を知ってるなら、こっちが先に着けばいい」
カイルが地図に視線を戻した。
「子供達も助ける。行こう」
ガーレンが帳簿の脇に地図を広げて、経路を指した。霧の谷の縁までは半日。
ノクスが私の膝に前足を乗せた。爪は出ていない。金色の目が、私だけを見ていた。何も言わなかった。それで十分だった。
椅子を引いて立ち上がった。副木の左腕が軋んだ。右手だけで十分だ。あの塔の中の式は、右手一本で組める。
――封印を、破らせない。
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