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第76話 「お姉ちゃま大好き」
視察から戻った翌朝、朝食の支度を整えたフィオレが、兎耳をぴこんと立てて封書を差し出してきた。
「お嬢様、昨日のうちにお父様から届いていました。お渡しするのを忘れていて」
受け取ると、父の筆跡だった。副木の左腕では封を切れない。フィオレに頼んで開けてもらい、卓に広げた。薬草の処方の覚え書きに、母の短い手紙が添えられていた。
その間に、小さな紙が一枚挟まっていた。拙い字だった。
ところどころ鏡文字になっている。『お姉ちゃま、ばあばのおうちの薬草園、お母様の薬草園よりちいさいけど、お花がいっぱい。早く帰ってきてね。お姉ちゃま大好き』
紙の下半分に絵が描いてあった。緑の丸がたくさん並んでいるのが薬草園らしい。
その横に、金色の棒が一本。ノエルだ。隣に銀色の棒がもう一本。
お姉ちゃま。足元に黒い丸が一つ。
ノクス様。三人が並んでいる。
手が震えた。紙の端が波打った。
六歳の指で描かれた線は太くて、力が入りすぎていて、はみ出している。
胸元に仕舞った。布越しに紙の角が肌に当たった。
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