表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/236

第60話 藍のドレス

 作戦が決まり、それぞれが支度に散った。私も、王城へ上がるための着替えに通された。



 シャルロットが衣装櫃を運ばせていた。蓋を開けると、深い藍のドレスが現れた。胸元に銀糸の刺繍。母の薬草園のセージの葉に似た意匠が、襟元を一周している。



「リーラ、着替えなさい。今日は冒険者じゃなくて令嬢として行くの」


「ローブの方が、動きやすい」


「侯爵令嬢が城に上がるのに、ローブで行くわけないでしょ。ヴェイン家の紋を見せれば顔パスよ。王家お抱えの医者の家なんだから」



 フィオレが呼ばれて、着替えを手伝った。ローブを脱がされ、副木の左腕を庇いながら、藍の生地を通される。腰紐が、慣れた手つきで締められた。胸の銀刺繍が、息を吸うたびに小さく揺れた



 藍の生地はひやりと冷たく、肌に馴染むまで少しかかった。袖を通すたびに、副木の重みが布の下で意外なほど目立たないことに気づいた。鏡の向こうで、見覚えのある令嬢が、こちらを見返していた。


 髪も結われた。フィオレの細い指が、腰までの銀髪を編み込みでまとめ、銀の細い髪飾りで留めた。


 窓の外では、ガーレンが馬車を回している音がしていた。車輪が砂利を踏む低い軋みが、別邸の壁越しに届く。出立の刻が近づいているのが、音だけで分かった。


 年に二度の夜会で見慣れたはずの令嬢の顔。でも今日は、少しだけ違って見えた。


 シャルロットが下がって、こちらを上から下まで眺めた。満足そうに頷いた。



「私の隣に立つのに、ふさわしいじゃない」



 言いながら、シャルロットの指が、私の襟元の銀刺繍をそっと直した。



「妹がいたら、こんなふうに着飾らせたかったの。──ずっと、思ってた」



 いつもの張った声が、ほんの少しだけ、柔らかかった。


 部屋を出ると、廊下の柱に背を預けてカイルが待っていた。私たちが着替えている間に、カイル自身も護衛剣士の革鎧と兜に身を整えていた。シャルロットがその方へ視線を投げた。



「カイル、見なさいよ」



 カイルが振り向いた。兜の隙間から覗く目が一瞬、止まった。息を呑む音が、覆面の下でわずかに聞こえた。剣の柄に添えた指が、わずかに浮いて、戻った。


 ノクスが肩に登りながら、私にだけ届く声で言った。



「久しぶりだな、ドレス姿は」



「まあね」


「そうだったな。前世から、こういうのは似合う方だった」


「黙って」


「ふむ。行くか」



 鈴が小さく鳴った。


お読みいただき、ありがとうございました。

この物語を見届けたいと思ってくださったら、ブックマークと★で、そっと背を押していただけると嬉しいです。毎日更新しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ