表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/145

第43話 「人を好きになるのは、自由だ。怖いのも、自由だ」

 自室の窓を開けた。月が西に傾いている。薬草園の向こうで、街灯が一つ揺れていた。虫が光の周りを回っている。


 ノクスが窓枠に登った。黒い毛並みが月明かりに青く光った。



「敵は、予想より大きい」



 ノクスが、月の方を向いたまま、低く言った。



「あの赤い瞳の女、結社の諜報員を屋根の上から始末した動きは、素人じゃない。古代知識の使い手だ。あれが結社側じゃないとすれば。別の何かが、結社を裏で潰しに動いている」


「別の何か」


「別の使徒か、その眷属か、あるいは、もっと別の勢力か。今のところ、見当はつかん」



 ノクスが前足をシーツの上に置いた。爪は出していなかった。



「お前、カイルとシャルロットを見て、ちょっと揺らいだな」


「うん」



 隠す気はなかった。ノクスの前で嘘をつくのは、十年で諦めた。


 ノクスが、しばらく黙っていた。尾の先だけが、一度揺れた。



「何度でも言う。お前が忘れるからな」


「人を好きになるのは、自由だ。怖いのも、自由だ」



 目を閉じた。返す言葉がなかった。


 好きだと認めるのが怖いのではない。好きだと認めた後に、失うのが怖い。



 前世で学んだことの中で、一番役に立たない教訓だった。



 月明かりが窓から差し込んでいた。部屋の中に白い光が長方形を作って、ノクスの毛並みの上を流れていた。


 遠く、ヴィルヌア中層のどこかで、ドルクの鎚が鉄を打っている。


 聞こえはしない。


 それでも、聞こえる気がした。


 ドルクが片腕で家業をもう少しだけ支える、その音だった。末妹の靴のつま先がぱっくり開いている。あの靴で、明日も歩く。



 もう前世のように、他人事として考えるのは、やめたかった。



 枕元のノクスの温もりを感じながら、私はゆっくり目を閉じた。


お読みいただき、ありがとうございました。

この物語を見届けたいと思ってくださったら、ブックマークと★で、そっと背を押していただけると嬉しいです。毎日更新しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ