第30話 「学院長は、言葉を選ばずに言うと、変人でございますので」
王立魔法学院は中層の北端、城壁を背にした重厚な石造りの建物だった。正面の扉だけで私の部屋の天井ほどの高さがある。扉の両脇にレガリア期の石柱が並び、その表面に刻まれた紋章が朝陽を受けて淡く光っていた。
受付で名乗った。
「ヴェイン侯爵家のリーラと申します。学院長様にお取り次ぎを」
受付係の表情が変わった。冒険者の格好で訪ねてきた少女の口から侯爵家の名が出るとは思わなかったらしい。
「少々お待ちくださいませ」と慌てて奥に消えた。
しばらくして、四十代の痩せた男が私たち四人を応接間に案内してくれた。鼻の頭に丸眼鏡をかけている。
「これはこれは、ヴェイン侯爵家のお嬢様。先日の夜会でお見受けしておりました。私、副学院長のグレンと申します。侯爵様には日頃より大変お世話になっております。どうぞよろしくお伝えくださいませ。本日はどのようなご用向きで」
「学院長アロウィン様にお会いしたいのです」
グレンの表情が申し訳なさそうに曇った。
「あいにく、学院長は本日ご不在でございまして。ご自宅に戻られております」
カイルが一歩前に出た。
「ご自宅は?」
「天落ちの谷にございます」
空気が止まった。
ミナが声を上げた。
「あの逆重力地帯!? 住んでる人いるの!?」
副学院長は表情を変えずに頷いた。
「学院長は、言葉を選ばずに言うと、変人でございますので」
淡々としていた。慣れている。
「行きます」
カイルが振り返った。
「危険だ。準備が要る」
「待てないの。呪いは、長く放っておくと定着して解けなくなることがあるから」
ミナとトールが、目を合わせた。
「呪い、っすか」
「ただ事じゃないわね」
カイルの目が揺れた。私が誰のために急いでいるか、伝わったらしい。
「分かった」
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