第28話 一番目
自室で、ノクスと向き合った。窓から朝陽が差し込んで、黒い毛並みに金色の光が混じっている。ノクスは窓枠の上に座って、尾の先だけをゆっくり揺らしていた。
昨夜のカイルの話が、頭の中で繰り返されていた。
カイルの兄。赤い目。
王家の術師が総力で解呪を試みて、解けなかった。
「ノクス。あの呪い、古代のものだと思う」
「根拠は」
「王家が集めた最高の術師たちでも解けなかった。現世魔法の体系の外にある術式だよ」
ノクスの尾が、一度だけ止まった。
「私が古代の術式を使えるなら、同じように使える転生者が、他にもいるかもしれない」
「飛躍しすぎだ」
ノクスの声は冷たかった。
「使徒は神に仕える者だ。王家を内側から食い荒らす動機がない。禁書庫に眠った術式を掘り起こした人間かもしれん。決めつけるのは早い」
「そうかもしれない」
でも、胸の奥で引っかかるものがあった。
転生前の記憶の、どこかで、似たものを見た気がする。
思い出せない。輪郭だけがちらついて、掴めなかった。それが不安だった。
「一番目に会いに行く」
「一番目?」
「最古の転生者なら、古代魔法のことを一番知っているはず。使徒が関わっているかどうかも、見当がつくかもしれない」
昨夜、古い記録を辿って一つの名前に行き着いていた。
「アロウィン・ヴェスタル。現世魔法体系の創始者。今は王立魔法学院の学院長として健在のはず」
ノクスの目が細くなった。金色の虹彩の中で、瞳孔がわずかに絞られた。
「お前が自分から踏み込むのは、珍しいな」
「踏み込まないと、ずっと後手だから。それに、カイルの呪いのことも、聞いてみたい」
ノクスの尾が止まった。しばらくして、もう一度揺れ始めた。
「好きにしろ」
肯定の口癖だった。そう言うと、ノクスは窓枠の上で後ろ足を頭の横に持ち上げて、耳の裏をかきはじめた。話は終わった、という合図だった。
こういう時のこの子は、本気でただの猫にしか見えない。
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