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第24話 「封印したものが、動いた」

 自室の窓辺で、ノクスが前足を組んでいた。月明かりが黒い毛並みを青白く光らせている。



「ノクス」


「ああ」



「遺跡の術式は私が封印した禁呪よ」



 声が低くなった。古い記憶の重さが喉に詰まっている。



「ああ。掘り出したのは現代人じゃない」



 ノクスの金色の目が窓の外を見ていた。低い声で、ノクスが続けた。



「あの術式を復元できる者は、私と同じ時代の魔法使いしかいない」


「だが、私の時代の者はもう、誰も生きていない」


「ということは、誰かが、転生している」



 ノクスのヒゲが、ぴくっと動いた。


 私が、低く言葉を継いだ。



「八人いる。私の前に転生した使徒たち。そのうちの誰かが現代に生まれ直して。古代の知識を利用している」



 ノクスが金色の目を細めて、頷くように瞼を一度落とした。



「あいつら、と呼ぶしかないな」



 ノクスの声だった。



「俺が昔から嗅ぎ続けてきた連中だ。まだ、正体は分からない」


「分かっているのは」



 私が言葉を継いだ。



「古代の禁呪を掘り起こしている。何のためかは、まだ分からない」



 ノクスが振り返った。金色の目がまっすぐこちらを向いた。



「家の前に立ってた男、祭壇の禁呪、街道のあの女。バラバラに見えるが、全部同じ時期に重なってる」


「うん」



「だから、慎重に動け」



 窓の外で虫が街灯の周りを回っていた。小さな羽音が夜の静寂に溶けている。



「ヴァロー家」



 机の上に、父の書庫から持ち出した古い系譜書が開いてあった。今日の祭壇から帰って、ずっと調べていた。



「見つけた。ルグランド王家の傍流の偽名だ。王族が市井に降りる時に使う、伝統の名乗り」



 ノクスの尾が、ゆっくり一度揺れた。



「あの男、王子か、それに近い血筋だ。間違いない」



 ノクスが片目だけ薄く開いて、こちらを見た。



「お前を見る目が、ただの剣士じゃないとは思ってたがまさか王族とはな」



 系譜書を閉じた。


 カイルの顔が浮かんだ。剣の柄の傷を撫でる癖。


 干し肉を齧る横顔。私を見る時だけ、少しだけ長く留まる視線。



「敵か味方かは、まだ分からない」



 ノクスが言った。正論だった。


 でも、



「敵じゃないと思う」



「根拠は」


「ない」



 ノクスが耳を横に倒し、目を細めて視線を逸らした。


 窓を閉めた。蝋燭の光が壁に揺れた。



 今夜は眠れない。

お読みいただき、ありがとうございました。

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