第170話 連撃。連撃。連撃。
ガーレンの腕の擦過傷に薬草を当てながら、瓦礫の向こうの音を聴き分けていた。
盾が叩かれる重い衝撃。連撃。連撃。連撃。
人間の声ではない咆哮が混じっている。石が砕ける音が重なった。
力を使えば、壁ごと消して助けに行ける。でも、全員の前では駄目だ。
化けた。読んだ通りだ。あとは、カイルが焔を溜めきるまで、トールの盾が保つかどうか。
手は止めない。布を巻きながら、耳と頭をフル回転させた。盾の音の間隔。崩落の兆し。こちらが回り込める一瞬を、逃さないために。
ノクスが動かずに座っていた。金色の目が私を見ている。
何も言わなかった。
「あと三秒!」
カイルの声。瓦礫越しに、はっきり聞こえた。
焔の音が膨れ上がった。白い光が瓦礫の隙間から漏れて、儀式場の右側まで昼のように明るくなった。
熱が頬を撫でた。向こうで何かが叫んでいる。人間の声と、もっと低い何かが混じった絶叫。
それでも止まらなかった。
まだ戦っている。
ロウェナが体を起こした。瓦礫の隙間に顔を押し込んで、赤い瞳で向こう側を覗いた。
「胸の光! あそこが核だ!」
声が届いた瞬間、向こう側から衝撃波が飛んできた。瓦礫を粉砕して、こちら側に到達した。石と鉄格子の破片が顔の横を掠めた。
ヴィオラの結界が広がったが、衝撃波の規模が桁違いだった。
結界の端が割れて、破片が内側に飛び込んだ。
ロウェナが壁に叩きつけられた。黒い帽子が飛んで、金色の髪が石畳に広がった。
ヴィオラが駆け寄った。手が震えていた。
「出血が、肋骨と、右足」
鱗杖を握り直して詠唱を始めた。杖の光がロウェナの体を包んで、出血が止まっていく。
ロウェナの胸が動いた。浅い呼吸が戻った。
向こう側で何かが砕ける音がした。
絶叫が上がって、儀式場全体が揺れた。
壁に亀裂が走った。
天井の石材が軋んで、粉塵が降ってきた。
ロウェナの腕が動いた。何をされたか分からなかった。私とヴィオラの体を横に押しのけていた。
体が横に転がった。石畳に肘を打った。
顔を上げた瞬間、天井の石材が落ちた。ロウェナがいた場所に。瓦礫の山ができた。
石と鉄と粉塵が積み上がって、ロウェナの体を埋めた。瓦礫の隙間から血が赤く滲み出した。
ヴィオラの手が鱗杖を握り締めた。指の関節が白くなるほど強く。
「結界が、もう少し早く張り直せていれば……!」
声が裏返っていた。
「ロウェナさん!」
喉が、勝手に叫んでいた。
「嘘でしょ。助かったのに。私を助けるために」
瓦礫の山が動かない。
返事もない。
瓦礫に手を伸ばした。掻き分けようとした。
ガーレンが腕を掴んだ。
「崩落が止まってない。今は動くな」
「上の石、右側が次に落ちる。掘るなら左から。ヴィオラ、治癒はいつでも撃てる位置で待って。ロウェナは生きてる。埋まっただけ」
言いながら、自分でも驚いた。声が、震えていなかった。こういう時、頭だけは勝手に冷たく回る。前世から、治らない癖だ。
ガーレンの手が、わずかに緩んだ。ミナが横で拳を握り締めて、唇を噛んでいる。それでも、私の言葉どおり、左の瓦礫に目を走らせた。
天井の軋みが収まった。粉塵がゆっくり下に沈んでいく。崩壊が止まった。
左右を分断していた瓦礫の壁が、異形の暴走で崩れ落ちていた。向こう側が見えた。
カイルが立っていた。焔鱗の剣を下げた姿勢で、胸当ての留め金が飛んで革が片側だけぶら下がっている。右頬の血が顎を伝って乾きかけていた。
トールがシャルロットを抱えていた。砕けた左膝で立って、両腕でシャルロットの体を支えている。シャルロットの頭が力なく垂れていた。肩から血が流れて、トールの胸当てを赤く染めている。
「リーラ、ヴィオラさん、シャロさんが目を覚まさないんだ」
トールの声が裏返っていた。
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