第154話 S級
地図の書き換えをグレヴァに頼んだ、その時、ギルドの扉が勢いよく開いた。
砂埃まみれの男が三人、駆け込んできた。測量具を背負ったまま、肩で息をしている。
「マスター! 南方測量班、ただいま戻りました!」
グレヴァの眉が上がった。
「噂をすれば、だ」
班長らしき男が、埃だらけの報告書を受付の卓に広げた。グレヴァが目を走らせて、読み上げた。
「山脈、完全消失を確認。直径およそ五十キロの真円形の硝子化平原を確認。地表に古竜の鱗の残滓多数。降灰、いまだ続く」
読み上げるグレヴァの声が、途中で途切れた。額の汗を手の甲で拭って、報告書の端を指で弾いた。
「ノクス殿、これはA級ではもう収まらない」
グレヴァが報告書の余白に、別の書状を三通重ねた。
王都宛、神聖教皇国宛、サフィアル連合宛。どれも緊急封蝋の赤い紐で結ばれている。
「ギルドだけで処理できる話ではありません。山脈一つが消えた。古竜が死んだ。地図も、街道も、国境警備も、信仰上の扱いも変わる。今朝、三方向へ早馬を出しました」
そこでようやく、骨塚で起きたことの重さを、別の形で思い知らされた。
引き出しから、封蝋のついた書状を取り出した。ギルド本部の紋章が押された厚い紙。
S級昇格の通達書式だった。グレヴァが書面に署名を入れて、乾かして、ノクスの前に差し出した。
ノクスは肩の上で、大きな欠伸をした。口の中の小さな歯が見えて、舌がくるんと丸まって、金色の目が細くなった。
「ノクス様、おめでとうございます」
グレヴァがヴィオラに向き直った。
「ヴィオラ殿。あなたについても、お話がございます」
「私は神官にございます。ギルドの登録は」
「存じております」
グレヴァが遮った。
「ですが、古竜討伐に同行し、命を懸けて戦った方を、報告書の余白に押し込めるわけにはいかない」
引き出しからもう一枚、書状を取り出した。
「永久名誉会員。S級相当。ギルド本部の殿堂に、お名前を飾らせていただきます」
ヴィオラが目を瞬いた。
いつもの丁寧な言い回しが、一瞬遅れた。
「私は、そのような」
「これだけは、譲れません」
グレヴァの声に、引退した剣士の意地が乗っていた。
ヴィオラは口を閉じて、しばらく書状を見つめてから、静かに頭を下げた。グレヴァが最後に、私を見た。
「リーラ嬢。S級冒険者の随行者として、あなたの等級もB級に改定します。古竜討伐に同行して生還した実績は、それだけで十分な根拠です」
「ありがとうございます」
ノクスの小さな前足が、肩の上で私の首を二度叩いた。得意げなのか呆れているのか分からない踏み方だった。
「ノクスのおかげだよ」
前足が三度目を踏んだ。
分かってる、の踏み方だった。
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