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第15話 「お前、図太くなったな」

 第一の門は、ルーンの配列だった。壁面に十二個の文字が円形に刻まれている。中央に空白の石板。


 正しい順序で三つの文字を押せば開くが、間違えれば天井が落ちる。



「これ、読めるんすか?」



 トールが壁面を見上げた。カイルも壁に手を触れたが、眉間に皺を寄せた。



「古代文字だ。教養程度には読めるが、意味が通らない。並びが変則的だ」



 私は黙って壁面を見ていた。


 全部読める。変則的なのではなく、これは私が使っていた時代の正書法だ。


 三番目と七番目と十一番目。影の循環を示す配列。


 ノクスを抱き上げた。



「ノクスが反応してる」



 ノクスの尾が一度振れた。演技だ。


 ノクスの前足を三つの文字に順に触れさせた。石が沈み、壁が左右に割れた。



「猫様すげえっす!」



 トールの目が輝いた。


 カイルは私を見た。じっと見て、視線を逸らした。


 罠の通路は影刺だった。壁の隙間から影属性の針が飛ぶ。間隔は一定で、パターンがある。


 ノクスの耳の動きに合わせて「猫様が安全なルートを示している」と装いながら、私が全員を誘導した。


 第二の門は橋だった。深い裂け目が通路を断っている。底が見えない。向こう側に扉がある。


 跳べる距離ではない。



「これ、どうするんすか」



 トールが裂け目を覗き込んだ。壁面に影属性の魔法陣が刻まれている。


 魔力を通せば影が実体化して橋になる。私が考案した術式だ。


 抱いていたノクスを裂け目の縁に下ろした。



「ノクスが橋を架ける」



 唇だけで、声にならない詠唱を紡いだ。


 声を殺して古い言語を口にする。この世界の人間には旋律にしか聞こえない。


 それさえ聞こえなければ、ノクスの加護として通る。


 影が裂け目の上に伸びて、固まって、黒い橋になった。



「猫が橋を架けるって、ありえん設定だぞ」



 ノクスの小声が私だけに届いた。



「信じてる人がいるからいいの」



「お前、図太くなったな」



 トールが橋の上を恐る恐る渡った。カイルは一歩一歩確かめながら渡り、途中で一度だけ下を見た。


 祭壇の扉は石の一枚板だった。中央に刻印が浮かんでいる。



「汝、影に仕えし者か」



 声が壁から響いた。


 古い言語だ。カイルの眉が動いたが、意味を拾えた様子はない。トールは首を傾げるだけだった。


 私だけが答えられる。



「仕えはしない。影と共に歩む者だ」



 古い言語で答えた。


 カイルとトールの耳には旋律のような響きとして、石壁に反響したはずだ。石板が沈み、扉が開いた。



「今のは」



 カイルが振り返った。



「ノクスの加護です。古い言語で応答する機能が」


「猫に、そんな機能があるのか」


「Aランクの使い魔ですから」



 ノクスが胸を張った。尾が優雅に揺れた。


 カイルの視線が、しばらく留まってから、離れた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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