第134話 「腹から声を出せ」
二週間が経った頃から、トールの修行が本格化した。
岩壁の前で盾を構え、シールドの呪文を唱えながら足を踏み込んだ。鍛冶場で鎚を振り下ろす感覚。足裏から腰を通って、盾の縁に力を集中させた。
盾の縁が青白く光った。衝撃が前方に走った。
岩壁に拳大の穴が空いたが、体が後ろによろめいて膝が笑った。
「届いてる。だが体が保たん。一発で膝が折れてたら意味がない」
ヴァロアが杖で岩壁の穴を指した。
「技はいい。だが後方支援が前提だ。お前一人じゃ、撃ったあとに隙ができる」
「分かってるっす。俺には」
トールが振り返った。庵の裏で焔を回しているカイルの背中を見た。
「俺には、カイルさんがいるっす」
ヴァロアの目が細くなった。何かを思い出すような、遠い目だった。
「カイル、か。よし。もう十回」
「うすっ!」
二十日目の夕方、トールの盾の縁から衝撃波が走った。五歩先の岩が砕けて飛んだ。
トールの膝は折れなかった。足裏が岩に食い込んで、重心が前に残っている。
ヴァロアが一度だけ、杖を地面に突いた。
「いい。名前をつけろ」
トールが盾を見た。木の芯に鉄板を張った、使い古した大盾。裏側に妹の名前が彫ってある。
「盾撃っす」
「そのまんまだな」
「うすっ。そのまんまが好きっす」
ヴァロアが笑った。笑い声が岩壁に響いて、二度、三度、山に吸い込まれていった。
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