第131話 焔が回った
修行を始めて、十日が過ぎていた。
ヴァロアの庵は、谷の奥の岩棚にあった。カイルは日が昇る前から剣を振り、日が落ちても焔を練り続けた。焔渦――焔を剣に巻きつけ、回転で圧縮して一気に放つ技だ。ヴァロアが「お前の焔鱗なら使える」と言った。
だが、十日経っても、回らなかった。
焔は剣の途中で散り、圧縮しきる前に解けた。十回やって、十回失敗した。岩棚に焼け焦げた跡だけが増えていく。
十日目の夕暮れ。枯れ枝を五本、地面に立てた。
息を吐いた。焦りも、一緒に吐き出す。剣に焔を巻く。回す。今までより、ゆっくり。急がず、芯から。
焔が、剣を中心に渦を巻いた。白に近い色になって、回転が止まらない。
振った。
焔が遠心力で広がり、円弧を描いて、五本を同時に焼き切った。灰になった枝が、風に攫われて散った。
回った。
ヴァロアが庵の縁台で腕を組んだまま、一度だけ顎を引いた。
「悪くない」
それから、低く付け足した。
「だが、溜めに時間が要る。回しきるまで、お前は棒立ちだ。その数秒に横から一突きされれば、それで終わる。お前一人じゃ、守りきれん」
カイルが息を整えた。汗が顎から落ちて、熱い岩に染みた。
分かっていた。十日のあいだ、ずっと感じていた。焔を溜める数秒、自分の周りががら空きになる。あの数秒を誰かが埋めてくれなければ、この技は使えない。
「分かっている」
岩壁の方で、重い音が規則的に鳴っていた。振り返らなくても、誰の音か分かる。
「俺には、盾を持つ相棒がいる」
ヴァロアの眉が動いた。
カイルの背後で、トールが大盾を岩壁に叩きつけていた。受けて、踏ん張って、また受ける。一歩も退かない訓練。カイルが焔を溜めるその数秒を、何があっても守りきるために。
二人とも、同じ絵を見ていた。カイルが溜め、トールが前で受ける。その数秒さえ凌げれば、焔渦はどんな相手にも届く。
「一人で全部背負おうとしない剣士は、長生きする」
ヴァロアが、ふっと息を抜いた。
「覚えておけ」
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