表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/236

第131話 焔が回った

 修行を始めて、十日が過ぎていた。


 ヴァロアの庵は、谷の奥の岩棚にあった。カイルは日が昇る前から剣を振り、日が落ちても焔を練り続けた。焔渦――焔を剣に巻きつけ、回転で圧縮して一気に放つ技だ。ヴァロアが「お前の焔鱗なら使える」と言った。


 だが、十日経っても、回らなかった。


 焔は剣の途中で散り、圧縮しきる前に解けた。十回やって、十回失敗した。岩棚に焼け焦げた跡だけが増えていく。


 十日目の夕暮れ。枯れ枝を五本、地面に立てた。


 息を吐いた。焦りも、一緒に吐き出す。剣に焔を巻く。回す。今までより、ゆっくり。急がず、芯から。


 焔が、剣を中心に渦を巻いた。白に近い色になって、回転が止まらない。


 振った。


 焔が遠心力で広がり、円弧を描いて、五本を同時に焼き切った。灰になった枝が、風に攫われて散った。


 回った。


 ヴァロアが庵の縁台で腕を組んだまま、一度だけ顎を引いた。



「悪くない」



 それから、低く付け足した。



「だが、溜めに時間が要る。回しきるまで、お前は棒立ちだ。その数秒に横から一突きされれば、それで終わる。お前一人じゃ、守りきれん」



 カイルが息を整えた。汗が顎から落ちて、熱い岩に染みた。


 分かっていた。十日のあいだ、ずっと感じていた。焔を溜める数秒、自分の周りががら空きになる。あの数秒を誰かが埋めてくれなければ、この技は使えない。



「分かっている」



 岩壁の方で、重い音が規則的に鳴っていた。振り返らなくても、誰の音か分かる。



「俺には、盾を持つ相棒がいる」



 ヴァロアの眉が動いた。


 カイルの背後で、トールが大盾を岩壁に叩きつけていた。受けて、踏ん張って、また受ける。一歩も退かない訓練。カイルが焔を溜めるその数秒を、何があっても守りきるために。


 二人とも、同じ絵を見ていた。カイルが溜め、トールが前で受ける。その数秒さえ凌げれば、焔渦はどんな相手にも届く。



「一人で全部背負おうとしない剣士は、長生きする」



 ヴァロアが、ふっと息を抜いた。



「覚えておけ」

お読みいただき、ありがとうございました。

この物語を見届けたいと思ってくださったら、ブックマークと★で、そっと背を押していただけると嬉しいです。毎日更新しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ