第130話 「振れ」
修行は翌朝から始まった。ヴァロアが木刀を投げて寄越した。カイルが受け取ると、ずしりと重い。芯に鉄の棒が入っていた。
「振れ」
庵の前の岩場で、カイルが構えた。
焔穿の構え。片手を添えて、剣先を相手に向ける。
一点突破の型。
「突け」
踏み込んだ。木刀の先に焔が宿った。橙色の光が岩を穿ち、拳一つ分の穴が開いた。
ヴァロアが腕を組んだまま、穴を見た。
「点だな」
「はい」
「一人相手なら、それで十分だ。だが、五人来たらどうする。十人来たらどうする。お前の剣は、一度に数人しか殺せない」
ヴァロアが庵の裏から枯れ枝を五本拾ってきた。カイルの周りに立てた。
「全部、同時に折れ。突くな。薙げ」
焔穿は突きだ。前方に集中させた焔を一点に叩き込む。師匠ロンドから受け継いだ型そのものだった。
薙ぎは逆だ。焔を横に広げる。剣を振り回しながら焔を遠心力で引き延ばす。
頭では分かる。体が追いつかない。
焔が剣から剥がれて散り、枯れ枝は一本も折れなかった。
何度やっても焔が円弧を描かない。
三日目に足を滑らせて岩壁を焼いた時、ヴァロアが遠くから「死ぬなよ」と怒鳴った。
トールの修行も同時に始まっていた。ヴァロアがトールの盾を一度叩いて、音を聞いた。
「硬い。鍛冶屋の父親が打ったな」
「うすっ」
「守りに振りすぎだ。盾は壁じゃない。攻めにも転じろ」
「攻めるっすか。盾で」
「盾の縁に魔力を集中させろ。踏み込みの衝撃を盾に流して、前に放つ。やってみろ」
トールが盾を構えた。シールドの呪文を唱えた。魔力が盾に流れ込み、青白い光が縁を走った。踏み込んだ。盾を前に押し出した。
何も起きなかった。
「力が逃げてる。足と腰が繋がってない」
ヴァロアが杖でトールの足首を叩いた。
「ここ。重心が浮いてる。鍛冶屋の踏み込みで鎚を振る感覚だ。お前なら分かるだろう」
トールの目が変わった。構えが低くなり、足の幅が広がった。
鍛冶屋の踏み込みに切り替えたのが見えた。
毎日、岩壁に向かって盾を叩きつけた。一日目は岩の表面に小さな亀裂すら入らなかった。三日目で粉が散った。五日目で拳大の欠片が飛んだ。
「もっと前だ。重心、前。怖がるな」
ヴァロアの声が岩壁に響いて、二人の耳に同時に届いた。
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