第128話 「三手に分かれる」
玄関先に朝日が差し込んでいた。石畳の上に、旅支度の荷が並んでいる。
カイルとトールの荷は軽い。剣と盾と、最小限の着替え。
私の荷も小さかった。門の前で、全員が互いの顔を見ていた。
カイルが私の前に立った。革の胸当てに朝日が当たって、縫い直した白い糸の跡が光っている。
「行ってくる。戻ったら、話したいことがある」
「待ってます」
何を話したいのか、聞けなかった。
カイルの目の奥にある何かが、まっすぐこちらを見ていた。
ミナがトールの前に立った。腕を組んで、顔を少し逸らしている。耳の先が赤い。
「死ぬんじゃないわよ」
「ミナさんも、無茶しないでくださいっす」
「あ、あんたに言われたくないっての」
トールが盾の紐を握り直した。大きな手が、革紐の上で一度だけ力を込めた。
ガーレンが門に向かって歩き出した。ルーシェがその背中を見送っている。
何も言わない。ガーレンも振り返らない。
門を出る足音が石畳を叩いて、門の向こうに消えていった。ルーシェの手が、抱えたノートの表紙を一度だけ撫でた。
別邸の門が、静かに閉まった。門の蝶番が軋む音が消えた後、庭に残るのはフィオレとルーシェだけだった。
フィオレが門の方を見つめて、兎耳をゆっくり倒した。私は南門へ向かって歩き始めた。
ヴィオラが隣を歩いている。ノクスが肩の上で、朝の風に目を細めていた。
背中の方から、カイルとトールの足音が北へ向かっていくのが聞こえた。遠ざかっていく。振り返らなかった。振り返ったら、嘘の顔が保てない気がした。
ヴィオラが小声で言った。
「リーラ嬢」
「うん」
「参りましょう」
石畳を踏む音だけが、朝の空気に二人分響いた。
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