第124話 魂器
ある夕方、ルーシェが布包みを抱えて別邸の廊下を歩いていた。別邸に戻って一週間ほどになる。二階の奥の一室を研究室に使わせてもらって、押収品の解析を進めていた。
温泉でヴィオラと打ち解けてから、古代魔法の話になると夜更けまで語り合うようになった。困った時にまず相談したいのは、今ではヴィオラだった。
ヴィオラの部屋の前で足を止めた。扉を叩いた。
「ヴィオラさん、ちょっと見ていただきたいものがあるんですが」
返事を聞いて、扉を開けた。
ヴィオラが卓に向かって古代語の文献を広げていた。ルーシェが布包みを卓の上に置いた。
結び目をほどくと、二つの瓶が現れた。骨のような白い材質。中で濁った液体が微かに揺れた。
「カイル殿下から預かったもので。王城の侍従長が持っていたと。押収品の中で、これだけどうしても特定できなくて」
ヴィオラの手が、文献の頁の上で止まった。瓶を一つ、手に取った。
指先で材質を確かめるように撫でて、光に透かした。翡翠の瞳が細くなった。
「ルーシェさん。これは古代の魂器です」
声色が変わっていた。
「感情を、人の心の一部を、抜き取って封じるための器」
ルーシェの眼鏡の奥の目が見開かれた。
「感情を」
「五千年前の遺物です。製法は失われています。効果は、私が知る限り、不可逆に近い」
ルーシェの指が、眼鏡のブリッジに触れて止まった。
「カイル殿下のお父上と、お兄上から奪われたものが、この中に入っているんです」
ヴィオラが瓶を卓にそっと戻した。両手を膝の上に置いて、しばらく黙った。
「少し、調べさせてください。心当たりが、あるかもしれません」
ルーシェは頷いた。ヴィオラの横顔から、さっきまでの柔らかさが消えていた。何かを辿るように、瓶を見つめている目だった。




