第12話 「知らないおじさんがいた」
朝の食卓で、ノエルが牛乳のコップを両手で持ったまま動きを止めた。
「あのね、お姉ちゃま」
「うん」
「昨日ね、お庭の外にね、知らないおじさんが立ってたの」
スープを掬いかけた手が止まった。匙の中で液面が揺れた。
「ずっとこっち見てたんだよ。柵の向こうで」
母と目が合った。母の目は笑っていなかった。
ノエルには見えない角度で、母が私に向けて、ほんの少しだけ首を横に振った。
父が新聞を畳んだ。
「警備をさらに増やす。北門側にも人を置こう」
低い声だった。ノエルに聞かせない声。
でもノエルは気にしていないようだった。テーブルの下で揺れている小さな足が、椅子の脚を蹴っている。
牛乳を飲み終えて、ノクスの方を見た。
「ノクス様、おはよう! 今日もふわふわ!」
ノクスがテーブルの端で耳を伏せた。ノエルの手が伸びてくる気配を察したのか、尾を体の下に巻き込んでいる。
「今日も来た」
ノクスの声が、私だけに届く小ささで漏れた。
「我慢して」
ノエルの手がノクスの背に伸びて、毛並みを逆撫でした。ノクスの尾が膨らんだ。
この子は時々、勘が鋭い。
知らないおじさん。柵の外。ずっとこっちを見ていた。
胸の奥が冷たくなった。スープを飲み干して、椅子を引いた。
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