第100話 「あらあら」
二日後の朝。馬車が三台、別邸の前に並んでいた。
朝靄の中で、シャルートが低く喉を鳴らしている。ガーレンが先頭の馬車に乗り込んだ。
ルーシェは三台目の荷台に座っていた。配置図の清書を膝に広げて、目は文字の上を滑っている。一文字も読めていなかった。
ガーレンの馬車が動き出した瞬間、ルーシェの視線が一度だけ前方に流れた。すぐに伏せた。
配置図の端を握る指に、力が入りすぎていた。先頭の馬車の御者台で、ガーレンが手綱を引きながら、ほんの一度だけ肩越しに後方を確認した。視線が三台目の方角に流れて、すぐ前を向いた。
それだけだった。
「ルーシェさん、寝てない?」
声をかけた。
ルーシェの目の下に、薄い隈ができていた。
「あ、いえ、何でも」
シャルロットが反対側から水筒を傾けながら、口の端だけで笑った。
「あらあら」
ルーシェの耳がまた赤くなった。配置図を顔の前に持ち上げて、隠すように覗き込んだ。
ノクスが肩の上で欠伸をした。金色の目が半分だけ開いて、ルーシェの赤い耳を三秒ほど見て、閉じた。
私たちの馬車も続いて、ハイレドンへ向けて進み出した。朝靄が車輪の跡を呑み込んでいく。
先頭のガーレンの馬車の影が、靄の向こうに小さくなっていった。
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