7話「大野さん襲来」
昨日バイトを辞めるという生徒会長に報告し、今日改めて担任の先生に言いに行ったら知っていたらしく、詮索はしないとのことだった。
けどもしも、また困ったことがあったら頼ってくれと心配されたのが分かった。
まあ、今のところお金の面で言えば心配になるようなことはないので問題はないと思われる。
さて、今日もまた地下ダンジョンへ行こう。
トイレのドアに手を伸ばすと、玄関のチャイムの音が聞こえて来た。誰か来たのだろうか。
子ども1人で住むからと施設の人がお金を出して改装等してくれたのだが、その際にインターホンを付けてもらい家の中からでも外の人を確認出来るようにしてもらっている。それと簡易な監視カメラもある。
インターホンを確認すると、玄関に立っていたのは見知った顔ぶれだった。
玄関のドアを開け、
「大野さん、お久しぶりです」
施設でもお世話になった大野侑芽さんに挨拶をする。
「実君、久しぶり!」
約8ヶ月ぶりの再会に、大野さんは嬉しそうに抱きついて来る。だが、ここで勘違いしてしまうと、痛い目に逢う。
この大野さん、結構スキンシップが激しい女性なのだ。見た目は大学生くらいのお姉さん的見た目をしているが、年齢はとりあえず今は置いておこう。
「心配してくれるのは嬉しいですけど、一旦離れましょ。ほらここ、住宅街ですし。変な目で見られますって」
抱きついている大野さんを引き離す。
「えぇ〜。心配されるのが嬉しいなら、黙って甘えてなさい」
そういう話じゃない気がする。とりあえずこの人は男性キラーで、良く男性に好意を寄せられているのだが、告られては振ってを繰り返している。大野さん的には悪気があってスキンシップを激しくしてるわけじゃないだろうけど、それでも振られた側からしたら悪気がって思ってる人もいるかも知らない。
ちなみに俺が知ってる数だと、50人くらいが振られていると思う。うん、凄いな。それで振り続ける大野さんも凄いな。もしかすると実は彼氏がいるかもしれない。
「とりあえずここじゃあれなんで、お茶して来ます?」
「久しぶりだし、そうしよっかな」
そうして俺は、大野さんを案内してリビングに向かった。
リビングに着き、大野さんを椅子を座らせてる間、俺はお菓子と紅茶を準備する。こういうのはあんまり分からないが、お菓子はその辺りで良いものを買って置いていたのを開けた。紅茶は結構前に生徒会長にもらったのがあるので、それを使っている。
「どうぞ」
「ありがとう」
大野さんはお菓子を食べ、紅茶を飲む。
「おいしいね」
と言いながら、俺の頭を撫でてくる。
「誰も見てないからってスキンシップ激しいですよ」
「別にそんなんじゃないよ。それに私はいつもこんな感じだったでしょ?」
「それは否定出来ない。けど、そんなしてると変な噂が立ちますよ。うちの高校でもビッチとか言われてる人居ますし」
「なっ……ビッチ!? 実君にそんなことを教えてるのはどこの誰!!」
ビッチって言葉に過剰反応した大野さんは、俺の肩を掴み揺らしてくる。視界が揺れる。
「と、とりあえず落ち着きましょ。ほら、紅茶飲んでください」
「うん。ありがとう」
一呼吸し、
「この紅茶飲んだことあるんだけど、買ったの?」
「いえ。それは高校に入学した日に生徒会長から良ければってことでもらったんです。一度も開けずに置いてて、せっかくだし開けようかなって」
なんて名前だったかな。なんか旦那を英語でだからダーリンみたいな名前の、
「確か、ダーリンだったかな。あ、そうだ。ダージリンって名前の茶葉だった気がします。美白を促すとか何とか。俺とは無縁だから、大野さんが持って帰ります?」
バイトしてた影響で肌が焼けたりしているので、今更俺が美白の紅茶を飲んだとしても焼けた肌はどうにもならないと思うし、美白になろうとも思わない。
「うーん。実君がいらないって言うなら折角だしもらってこうかな。けど、取られたらとか言ったらダメだよ?」
「はぁ? よく分かんないですけど、全然良いですよ。俺は全く飲まないですし」
俺は大野さんのからにかなったコップに紅茶を注ぐと、キッチンの方へ茶葉を取りに行く。
専用の紙袋に入っていたけど、そのまま渡すのもアレなので、ついでに手提げの付いた紙袋に入れて渡すことにする。
「それで今日はどうしたんですか?」
「ん? そうだった!」
この人、忘れてたのか。お菓子と紅茶の飲みすぎかな? 次から俺が気を付けよう。
「実君がバイト辞めたって担任の先生から連絡あったから、何があったのか様子見に来たんだよ。けど、全然大丈夫そうで安心したし、みんなにも説明がつくかな」
「なるほど。そりゃそうなりますよね」
「うんうん。それでバイトを急に辞めた理由は何かあるの?」
やっぱ、聞いてくるよね。生徒会長なら全く詮索して来ないから俺的にはやりやすいのだけど、大野さんって結構聞いてくるから答えにくい。自宅に地下ダンジョンが出来たとか言ったら、病院に連れてかれそうだし。
「黙ってると、お姉さんが聞き出しちゃうぞ?」
「それは出会った時からだから」
「そうだっけ?」
「そうですよ」
うーん。信用はしているからバイトを辞めた理由を言ってもいいんだけど、正直悩む。
「まあ、あんまり言えないなら今回は聞かないでおくよ。お姉さんは実君のお姉さんだからね。けど、いつかは覚悟するんだよ?」
お姉さんって。いや、うん、年齢的に考えたら俺が弟で大野さんがお姉さんみたいなもんだし、まだ施設に居た時も外出る度に姉弟かってくらい勘違いされた記憶はある。
「女の子の勘は鋭いから変なこと考えないことだよ! 実君」
「あ、はい。すみません」
まあ、いつか話すことになるくらいは覚悟出来ると思うし、そういう日はいつか来るだろうと思ってた。バイト辞めようとした日から。
「わかりました。いつか、覚悟が出来たらその時聞いてくださいね」
「流石、出来の良い弟だね!」
大野さんは満足そうに抱き着いて来て俺の頭を撫でてくる。
「いや、弟じゃないですって! 姉でもないでしょ。それに男性の敵になるのは嫌ですよ」
引き離そうとすると、引き離せないような理由が出来てしまい俺はそのまま頭を撫で続けられた。うん、理由は言わないからな。
「それはないってー」
あー、この人本当に無自覚なのかも知れない。悪気あるかも、どうしよう。
その後大野さんにお菓子と茶葉を渡して、
「たまにはこっちにも来るんだよ。みんな待ってるんだからねー」
大野さんが施設の方へ帰って行く背中を俺は見届けた。
どっと疲れたが、今日のノルマがあるので地下ダンジョンへ向かう。食器洗いはまた後で。明日学校は休みだから、明日でもいいんだけど。
とりあえずノルマの100個は辛いので、半分にする。
1階層へ入るとすぐにスライムが正面に現れた。ポヨポヨと動いており、俺の存在には気が付いていないようだ。その隙をすかさず攻撃に使い、スライムを倒した。
先手必勝だ!
地図を見ると近くにもう1体が居るようだ。
近づき、壁からスライムの方を見てみると、そこには壁にくっ付いている赤色のスライムの存在だった。
あれは、なんだ?
今日まで倒して来たスライムはずっと青色で、赤色ではなかった。しかも目の前にいる赤色のスライムは何やら光を放っているように見える。
ここで俺はこういう見かけない存在をある言葉で言い表すのだと思い出した。
それは、レアモンスター。




