チケット13枚目 各プレイガイドの住人たち
二徹民ともなるとそれなりに顔が知られてくる。
私は並びは基本的に音楽堂専なのだが、風邪気味だったり仕事が忙しかったりで徹夜で並ぶのが無理なときはチケット発売日の当日朝に全プレイガイドを回っていちばん列が少ないところに並んだりもする。
朝一番のバスを降りる。
そこはまだ霧の残る中央街。
最初に見るのは駅前、JLサービスだ。
意外と列は少なめ。
観察していると先頭のお姉さんと目が合った。
頭を下げると、ちょいちょいと手招きされた。
「おはようございます」
挨拶をした相手はファンクラブの県代表。
一徹のころは会話もしたことがなかったこの県のボスだ。
「おはよう。音楽堂どんな感じ?」
「ああ……私、今からなんです。今回徹夜できなくて。全部回っていちばん少なそうなところに並ぼうと思っています」
「そっかー。ここ今回、ちょっと少ないよ」
「そんな感じですね。ぐるっと回ってから戻って来るかもしれません」
「がんばってー」
「ありがとうございます。行ってきます!」
もう一度頭を下げて、私はこの場を離れた。
県代表は、最初は怖そうな人だな……と思ってたけど、実際話をしてみると面倒見のいいみんなの姉御だった。少し前に「ファンクラブの県名簿持ってるんだけど、あなたの住所調べていい?」と言われたときはなにが起こるのかと思って戦々恐々としたが、年賀状が届いただけだった。かわいい。
私が未だに徹夜組最年少ということで一目置いてくれているようで、会場の垂れ幕造りとかに声がかかるが私はのらりくらりとかわしている。それでも怒らず優しく接してくれる。
怖そうな人だと思ってすみません。いい人でした。
そんな人でないと県代表なんて務まらないだろう。
でも各会合のお誘いはご遠慮します……
大通り沿い、ポップレコードに着いた。
男子の多いこのプレイガイド。
その中の男ボスといった風格の男性が私に声をかけてきた。
並び最年長くらいの人だ。
「お。夜いなかったよな。今から?」
「今からっす。今忙しくて、徹夜はキツくて……」
「そっち繁忙期だもんな」
なんでこんな年が離れた人と親しく話せるというかと言うと、この人は仕事上付き合いがある会社のエラい人だからだ。だからといってうちの職場で「この子、高校生のころから知ってるんだよー」とか言うのやめてください専務。
「あいかわらずポップレコードは多いですね」
「朝になって急に増えたわ」
「ここはやめときます」
「今からなら、余った席譲ろうか?」
「いやまあ……自力で取ります。ありがとうございます」
「取れた席が不満だったら声かけてよ」
「はい。そのときはよろしくです」
この人は有り余る資金力を元に、グループで複数買いをしている。
この人がここに並んで他の人がJLに並んでいて他の人が電話をして、などで複数パターンでチケットを取って、そしていちばんいい席を自分たちのものにしてそれ以外の席は知り合いに売ったり譲ったりしている。
下手に並んでチケットを取るよりもこの人から常時譲ってもらったほうが楽だし席もまあまあ良かったりするが、そこはこっちもプライドがあるので今のところお願いしたことはない。
複数買い専務と別れて音楽堂へ。
いつものメンバーが気付き手を振ってくる。
「今日はどこに並んでるのー?」
「いやー今回は今からなんです。でもここもポップレコードももう多いですね。JLかダイオーで並ぶと思います」
「そのほうがいいかもね」
「がんばってー」
「はーい行ってきます!」
私は頭を下げて、そして最後のプレイガイドへと向かった。
最弱プレイガイド、ダイオー百貨店へ。
ダイオー百貨店の、別館にプレイガイドはある。
本館と別館の間の通路にベンチがあるがそこに座って徹夜すると警備員に注意される。治安はいいのだがそんな扱いをされるために居心地は悪く、そもそもここで頑張って一番とってもどうせ席は十から十五列目くらい。他プレイガイドの一徹とほぼ変わらず。だからここはどうあがいても一徹の価値しかなく、つまり一徹しかできない場合はここにお世話になったりもする。
「おはようございます」
「お、久しぶり」
そこの一番にいつもいる彼は数少ないダイオー専だ。チケ取りバトル参戦組にはなかなかいないタイプのシャイな人。男子最年少のためチケ取りお姉さんたちに可愛がられているが、あまり大勢に揉まれるのは好きではないらしくいつもひっそりとひとりでダイオーのトップを押さえている。とはいえ私は彼から見れば唯一の年下の徹夜民のためか、比較的よく話してくれる。
「並び量の調査?」
「というか自分今からなんで並ぶとこ探してます」
「そっかー。ここはまだ五組くらいだけど……」
「五ならここにしようかな。ここの二番目にいい席くらいなら取れるかも」
「それくらいかもね」
そうして私はここダイオーの最後列に並んだ。
百貨店だけあって十時が近付くにつれちょっとハイソな奥様方が入り口に集まり出して私たち並び組を訝しげに見てくる。つらい。
別館の扉が十時になった瞬間に開いた。並んだ列のままゆっくりとエレベーターで二階へと上がり、プレイガイドに着く。
座席表に蛍光ペンで塗られている席はやっぱりよくはない。
いちばん前は十列目くらい。その次は十八列目くらい。
私はその十八列目が取れる立場だったが、二階席二列目中央を指さした。
理由は知らないがダイオーは比較的二階席には強いのだった。
男子最年少の彼が声をかけてきた。
「どこ取った?」
「二階席の二列目です」
「ああ、いいとこだね。じゃあお疲れ様」
「はーい、お疲れ様でした」
たまにはこういうまったりとしたチケ取りも悪くない。
※徹夜並び民の基本性質
ほぼ陽キャ。
というか陽の者でないと長い忍耐の夜を生きていけない。私は陽キャ偽造してたから正直つらかった。
ただし当日朝からの並びなら陰の者でも大丈夫。
割り込みでもしないかぎり話しかけられることはないぞ!




