チケット14枚目 天使とチンピラの聖戦
今日はコンサート当日だ。
すでに先週〇〇県のコンサートに参加したあとの、自県でのコンサート。グッズも既に購入済みで開演まで時間に余裕がある。私はコンサート会場の周りを散歩していた。
「あ、久しぶりー」
そのとき、声をかけられた。
「ああ、お久しぶりです」
コンサート仲間のなかでも数少ない、私より背の低い人。
ラミエルとかいう天使の洗礼名を持つお姉さんである。
ラミエルさんとの出会いはよく覚えていない。
チビ同士気が合って、前の席が背が高い人だったら死亡確定とかちょっと前の席よりすごく後ろの通路の後ろの席とかチビあるあるネタで盛り上がり、いつの間にか仲良くなったんだと思う。本名も確か聞いたのだが「別ライブではラミエルと呼ばれています」のインパクトが強すぎて忘れた。
彼女はウインドビートのガチファンではなく、正体は他バンドファン。我らのウインドビートは彼女にとって、三番目程度の位置。そして彼女のメインバンドには『ファン同士天使の洗礼名で呼び合う』文化があるらしいのだ。ああなんて素晴らしき異文化交流。
つまり彼女は飛びぬけたコンサート大好き民。
ちょっとでも好みな歌手なら全部現地に行ってやるわ!の人なのである。
そんな毎月レベルでいろいろなコンサートに通う彼女、通常のチケット取りをするのは楽ではない。そうなると彼女のチケット取りの方法はどうしてもイレギュラーなものになってしまい……
ストレートに言えば、ダフ屋を利用している。
ダフ屋。
今でいう転売屋だ。ただしコンサート当日の現地、道行く観客っぽい人に片っ端から「チケット余ってない?」と聞きまくるアナログなやつ。中身は暴力団関係者だと思われる。
平成中期にダフ屋行為はほぼ全国的に禁止され令和の現在は絶滅した存在だが、かつては当たり前のように存在し当たり前のように利用する人がいた。当時は暴力団の資金源であるとは知りつつも利用することにあまり罪悪感も感じなかった。ま、平成前期なんてほぼ昭和だったしそんなもん。不法行為に対する一般人のマインドはゆるゆるだった。
彼らは余ったチケットを安めに買い取り、楽にチケットを手に入れたい人に席の良し悪しを基準にしつつ高めに売る。自分のような徹夜チケット取り民にとっては縁のないシステムではあるし、あからさまに暴力団下請けって感じのチンピラが愛するバンドのチケットを弄んでいることに禁忌感はある。
しかし彼女はその小柄な身体を生かし、チンピラににこにこしながら近寄っていって言うんだ。
「こんにちは、すみません。私いつも歌手がよく見れなくて……いい席持っていませんか?」
「おうおう姉ちゃんちっちゃいな! ちょっと待ってろ、仲間にもいい席持ってないか聞いてみるわ!」
恐ろしく、扱いが上手い。
以前、まだチケットないんだ買ってくるねと言ってそんな展開を見せつけられてちょっとびっくりした。
「ダッフィーさんたちそこまでしてくれるのに、なんだかいつもそんなに高値を言ってこないのよー」
そう言って笑う天使。
この笑顔でチンピラを一瞬で手懐けてしまう。
すげえなこの人。いや天使か。
……はたして天使、なのかな??
※ダフ屋
愛称ダッフィー。
昭和から平成前期、コンサートあるところ必ず彼らはいた。
コンサートホール敷地内に入ると不法侵入になるらしく声掛けは路上のみ。どいつもこいつも強面だったが無視すれば追いかけてくることもなく、特に害もなかった。あちらも通報なんかされたくないだろうし。
とはいえ長いコンサート通い経験上、たった一度だけファンとダフ屋がトラブルになって警察が来たのを見たことがある。
さすが修羅のく……いやなんでもないです。




