チケット12枚目 二徹がいちばんコスパがいい
社会人になっているわたくし。
ある日の夜、いつものように商店街の片隅で段ボールをひいて毛布で顔を隠して眠っていたのですけれど、なんとなく、ふと、毛布から顔を出したんですよ。
ちょうどそこを歩いていた女の人と目が合いました。
あの人、うちの会社の出入りの業者さんじゃん。
なんか年の離れたおじさまと腕組んで歩いてらっしゃるんですけど。
なんかヤバいもん見た。
でも向こうは向こうで、なんかあの人路上で寝てる……てドン引きした目してた。
そのあとその人うちの会社に来て普通にお話ししましたけど、当然お互いそのことには一切触れ合いませんでした。それが大人ってもんでしょう。うん。
☆☆☆
さて二徹の時代が続きました。
正直、二徹が体力的にも精神的にもいっぱいいっぱいですもん。
とはいえ一度だけは三徹をやってみたんです。
そのときは身体も精神もボロボロになった上で二列目。夢の一列目にはあと少し届きませんでした。いやまあ二列目も三徹が報われるくらいには良かったのだけど。
結論。
二徹いいわ。
だいたい五列目から九列目くらいまでのヒトケタ席がほぼ確実だし。
そしてそのくらいの席にはオマケがある。
物品が、飛んで来るのだ。
飛んで来るモノ。
いちばん多いのは銀色のテープ。いわゆる銀テ。
あるいつもの決まった曲でぱーんと客席に向かって大量に撃ち出される。
意外と最前列付近では取れず、五列目から十五列目くらいはもういらねーってくらいゲットできる。お土産にはなるけどそこまでの価値はない。
次に多いのは未使用ピック。多いといっても、いちステージ十数枚程度。
本番やアンコールで予定全ての曲が終わったあとのメンバーが帰っていくとき、ギターとベース弾きのための未使用のピックがあればそれが客席にばらまかれる。メンバーの気分にもよるのでばらまかれないときもある。
わりと適当にばらまかれるので最前列付近、一列目から三列目くらいまでの人のお土産になる。
一瞬メンバーに触れられたってだけでぶっちゃけグッズ売り場で売ってるピックと大差はない。
レアなのは使用済みピック。がががーとギターとかをかき鳴らしたあとヒビが入ったりしたら客席にぽいっと不意に投げられるやつ。たいてい未使用のよりもわりと遠く、フリスビーのように投げられる。届くのは五列目から十列目くらいが多い。
それがこちらへと飛んで来た瞬間、それまで仲良くノッていた周囲の人たちが一瞬で敵になる。さすがに誰かがゲットしてしまえば強引に奪い取ったりはしないが、宙に浮いているときは誰もが獣のようにそれに飛びつく。みんなの必死さが怖い。でも飛びつく。そのときは私も獣になる!
結果、今まで二枚ほどゲットしています。ここまでのものなら充分に宝物になる。
超絶レア。おそらく投げる予定がなかったけどイキオイで投げちゃった手袋とか、時には靴とか。
あぶねーよ。
こんなもんまず持っている人はいない。持っている人は末代まで自慢していい。
こういうのはさすがにオーバースローされても困るし一列目の人がゲットするのが多いようだ、が、そんな現場すらリアルでは見たことない。ビデオでは見たことある。
そして超絶までではないけど、激レア。
たとえばドラムスの人のドラムスティック。
木の棒なんか飛んできたら危険なので、基本的には投げられない。
でもドラムスの人がめっちゃテンション上がっちゃったとき極稀に客席に投げられることがある。あぶないですやめてください。
だがあるときのコンサート。
投げられたドラムスティックが、七列目くらいの私の席のほうにまっすぐ飛んで来た。
やべええええええ!!
危険を感じた私。
しかしそのとき私は恐怖に打ち克ち、獣となった!!!!
前の席に左手をかけ、高くジャンプして右手を高く掲げたことは覚えている。
このチビの私が、誰よりも高く、ジャンプして。
そしてぎゅっと掴んだ。
その木の棒を。
ばしばしドラムを叩いたあとの、ボロボロになって中央付近がささくれ立ちまくってる、木の棒の、ヒビ割れたその真ん中を。
「うおおおおおおおおお!!!!」
気がつくと私はそれを高く掲げて叫んでいた。
この獣の雄たけびを、周囲の席の人は拍手でもって称賛してくれた。
手に木のささくれが刺さりまくってるけどな!!!!!!
まさに血と汗と涙の塊であるそのスティックは、自室に飾って毎日拝んでます。
※激レアアイテム「ヒビわれたきのぼう」
その日は「あの、少しだけでいいんで触らせてください……(>_<)」な人たちに囲まれてなかなか帰れませんでした。
※レアアイテム「キズのはいったピック」
こちらに飛んできたはいいが、いったい誰が取ったのかわからない……
そしてコンサートが終わって会場内が明るくなり、私と隣の知らない人との間の足元にそれが落ちているのに気付き……! 光の速さでかばんを動かしてそれを隠し、隣の人が帰ったあとにこっそり拾ったことがあります。




