チケット11枚目 二徹時代のはじまり
なんだかんだで社会人になっていた。
そういえばひとつ上の先輩は一年前に我が県から離れていて寂しい……わけでもなく、夏イベントなどに行くと普通にばったり出会うので別に感慨深く語ることはないです。
そうなると、試してみたくなるのは二徹。連続二日の商店街内でのスリーピングである。
今までは一徹でだいたい十列目から十五列目くらいを確保していた。
私の最終的な目標は一列目。
それは三徹はしないと無理な夢なのだが、一徹から三徹にいきなりジャンプアップする勇気はない。まずは二徹に身体が耐えられるか。それを試してみたいと思ったのだ。
金曜日の仕事が終わり、職場でラフな服に着替え、そして商店街へ。
音楽堂の前にはいつもの三徹組のお姉さんが店の邪魔にならないところに立っている。
「お久しぶりです!」
「あーお久しぶり! 並びに来た?」
「はい。今の最後尾貰いますー」
「昨日から徹夜してるグループがもうちょっといるよ」
「もちろん了解です」
働く仲間への配慮。
明日土曜日は私も午前中仕事があるし、その配慮の恩恵を受ける。
今ここにいない前の人に文句を言うつもりはない。
そして夜。
初めての二徹。
私の知る、ラスト一徹よりも人の少ない夜の列。
それでもいつもより人が多めらしい。三徹組のお姉さんが呟く。
「明日、整理券が出ればいいな」
整理券というシステムについて。
たとえば人気歌手のチケット取りの場合、日曜日がプレイガイド発売だというのに土曜日にはもう大量の徹夜組が溢れ、その店の横幅以上の列ができる場合がある。そうなるとプレイガイド持ちの店は隣の無関係な店に迷惑をかけることになる。
隣の店の土曜日の営業に悪影響がある、土曜日の深夜の並び列が隣の店の前まで侵略する。そうなるとプレイガイド持ちの店が商店街組合かなんかに怒られるのだろう。整理券というのを発行し、今並んでいる人に日曜日そのまま列の前方に並ぶ権利が与えられる。
つまり、土曜の夜は家でぬくぬくと眠って、日曜の朝にチケットゲットができるのだ!
超ラッキーイベントである。
なお昔まだ私が日曜日早朝からしか並べないころ、音楽堂前に行ったらいつものお姉さんたちがいないどころか、三組程度のグループしかいなかったときがあった。
その中の一人がぼやく。
「土曜、整理券が出たっぽいね……」
それで私は整理券の存在を知った。
その後一度だけ、土曜に並びに言ったらすぐに整理券を貰えるという超ラッキーなことがあった。
そして一度だけポップレコード組が複数人軽やかな足取りでやってきて、こっち整理券出たよー!と言って去って行ったことがあった。ムカつく。
まあそれくらい滅多には、うちらのバンドのチケット取りにはそのイベントは起こらない。
そして今回、少し並びが多い。
もしかしたら明日、整理券が出るかもしれない。
★★★
土曜日、仕事を終わらせて再び列に戻る。
時は夕方を過ぎ、音楽堂の閉まる時間が近付いてきた。
列は伸び、仕事組が全員集合したら音楽堂前をはみ出しそう。
音楽堂の店員が列を見に来て、そして無言で店の中に戻って行った。
「整理券出すかどうかの……確認だね」
誰かがぼそっと呟き、みなは唾を飲み込む。
そして数十分後、店員が出てきて無言のまま、シャッターを閉めた。
ちくしょーーーー!!
心の中で叫ぶが、誰も実際に文句は言わない。
だって私たち、お店の前に並ばせていただいているような低い立場の者ですもん……
※整理券
別のプレイガイドにそれが出た場合、もうおうちかえりたくなっちゃった人はそちらに言って最後尾の番号を貰って帰ったりもする。最後尾であろうと一徹した状態の席が取れるんだから、並んだばかりの人はそのほうが賢いかも。
でも「その店に並んだ人が多かったから配られたモノ」であることは忘れないでおきたい。
もしかしたら通常の一徹よりも後ろのほうになるかもよ??




