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88話 4章 ~処刑前~

 蛇見ナギサを殺害した犯人は羊谷ジンだった。


 彼がそう認めた瞬間に、僕は身構えた。

 チハヤくんがジンくんに怒りを見せるかと思ったからだ。


 だが、チハヤくんは予想に反し、その場にとどまったままだった。


 流石にこれは予想外だったのか、ジンくんが驚きの表情を見せる。


「てっきり私に殴り掛かってくるものだと思っていたが、意外に冷静だな、龍崎チハヤ」


「・・・・・・いや、腸(はらわた)は煮えくり返っているし、今にもお前を殺してやりてえと思っているよ」


 拳を握りしめながら、チハヤくんは首を振る。


「だがよ、感情にまかせて行動してもいけねえってことを俺様はさっきも含めて痛いほど身に染みたからな。んで、思ったわけよ」


「何をだ?」


「ジン、てめえ、こうなった時の為に、さっきの円卓会議の中で『会議が終わるまで席を離れることを禁止』ってさせたんじゃねえのか?」


「ふ。そこまで理解していたか」


 ジンくんは口元に笑みを浮かべる。


「それって・・・・・・ジンくんは犯人として暴かれることも想定していた、ってこと?」


「さっきも言ったが、あまりにもずさんな犯行だったからな。こういう最悪のケースも含めて考えてはいた。まあ、流石に死にたくはないから抵抗はしたがな」


 いつもと変わらないように淡々とした口調でそう言うジンくん。

 だが、彼はナギサくんを殺した、殺人犯なのだ。

 そこを忘れてはいけない。


「なあ、ジン。教えろよ」


 チハヤくんも静かな口調で、ジンくんに問いかける。


「お前、『黒幕』なのか?」


「勿論、違う。私は『黒幕』ではない」


「なら、どうしてナギサはお前を『黒幕』だと思ったんだ?」


「それは恐らく、これが原因だろう」


 そう言ってジンくんは懐から封筒を取り出す。


「クウギョ、これを龍崎チハヤに渡してくれ」


 ジンくんから渡された封筒を、クウギョは言われた通りにチハヤくんまで運ぶ。

 受け取ったチハヤくんは怪訝そうに眉を歪める。


「なんだよ、これ?」


「これは蛇見ナギサが持っていた『黒幕』の情報だ」


「な!?」


 ナギサくんの遺体に残されていなかったモノだ。やはり犯人であるジンくんが持っていたのか。

 チハヤくんは封筒を破りそうな勢いで開封して中身を見る。


「これは・・・・・・」


「チハヤくん、なんて書いてあったの?」


 チハヤくんが封筒の中身を答える。



「――『黒幕は能力を偽っている』だとよ」

  


「そういうことだ」


 ジンくんが自分の胸に手を置く。


「私は能力を偽っていた。それに気が付いた蛇見ナギサが私を『黒幕』だと思い込んできた、というわけだ」


 成程、ナギサくんの情報がこれだったならば、彼が『当たり』の情報だと思っていたのも納得がいく。


「これが本当ならば、お前が『黒幕』じゃねえか」


「勿論違う。だから、私以外にも『能力』を偽っている者がいるということだ」


「ジンくん以外に・・・・・・」


 思わずみんなを見回してしまう。


「猫泉コータ。言っておくが、この中にいる、とは言っていないぞ」


「え?」


「当然、現在死んでいる者の中に『黒幕』がいた可能性もあるからな」


「あ、ヒナタさんも確かに偽っていましたね」


「そっか。そのパターンもあるんだね。てっきり、今いる人達の中に『黒幕』が確定でいるのかと思い込んでいたよ」


「だから蛇見ナギサも『黒幕』かもしれない、と言っただろう」


 そういえばバイアスを掛けるなと言われていたっけ。

 まあ、今思えば、それも自分から疑いを晴らすための言葉だったのだろうけれど。


「あのー、もういいですか?」


 唐突にクウギョが口を挟む。


「もう皆様結論は出たようですし、投票に移らさせていただきたいのですが」


「待て、クウギョ」


 ジンくんが制止する。


「何でしょうか?」


「投票に移る前にやりたいことがある」


「やりたいこととは何でしょうか?」


「『神(・)』の(・)指(・)名(・)だ」


 そういえばそういうのがあった。

 ジンくんの言葉で思い出した。


 全員一致で指名すれば、その人が神になるという、平和的な方法。


 だが、


「それは出来ません」


 クウギョが拒否の言葉を口にする。


「理由は現在、円卓会議の最中だからです。円卓会議が終わっていない中でこのような提案が行われると、犯人がいちかばちかの賭けで毎回行うこととなり、皆様が犯人を特定するというプロセスが無くなってしまうからです。その為、少なくとも犯人投票までは実施お願いいたします」


 あくまで、処刑する犯人を選ぶ、ということ自体は実行させるつもりか。


(やはり悪趣味極まりないな)


「成程。それは一理あるな。まあ、投票後でもよしとしよう」


 ジンくんは両手を広げる。


「投票を始めるといい」


「了解いたしました」


 クウギョがヒレを広げる。


「では皆様、今から当事件についての犯人が誰なのか、投票をお願いします。

 お手元の電子機器の投票アプリから犯人だと思われる人物を指名し、決定ボタンを押して下さい」


 いつもと同じように、自分のスマホの投票アプリを立ち上げる。


『蛇見ナギサが死亡した事件の、犯人だと思われる人を選択してください』


 サスケくんの時と同じ記載の方法だ。

 だが、ナギサくんが自殺したのではないことは、既に僕達は知っている。


 僕が犯人の名前を選択し決定したところで、部屋が暗くなる。


「それでは結果が出ましたので表示します。投票結果は以下の通りです」



 羊谷ジン 5票



「ということで最多投票は羊谷ジン様になりました。

 羊谷ジン様が犯人だったかどうかについては、処刑後、お伝えいたします」


「伝えなくてもいい。私が犯人だ」


 大きく深呼吸すると、ジンくんはクウギョに向けて言葉を放つ。


「さあ、これでどうあろうと私が処刑される。だから最後のあがきとして、神への投票を実施してもらおう」


「分かりました。では――」


「おい」


 チハヤくんが怒声を上げる。


「誰がてめえなんか『神』にするかよ。やっても無駄に決まってんだろ。なんでこんなことするんだよ」


「無駄にはならないと考えているからだ、龍崎チハヤ」


 無駄にならない?

 ジンくんを神にして処刑されないようにしてあげる、ということをするには、僕達はあまりにも犯人を処刑場に送っている。

 何よりも、チハヤくんが彼を許さないだろう。

 それなのに彼は何をしようとしているのか。


 固唾を呑んで見守っていると、ジンくんは口の端を上げる。


「言っておくが、私は神になる気は無い」


「なんだと? だったら何でやるんだよ?」


「色々と分かることがあるからだ。更に勘違いしているようだが、私は、私自身を神にするかどうかの投票をするつもりはない。

 ――私(・)以(・)外(・)の(・)誰(・)か(・)を(・)神(・)に(・)す(・)る(・)か(・)の(・)投(・)票(・)を行う」


「え?」


 思わず声を上げてしまった。


「どういうこと? 他の人が神になるかの投票なんて出来るの?」


「可能だ。私は事前にクウギョに聞いていた。――なあ、そうだろう、クウギョ?」


「ええ。可能です。ただし、失敗した時、脱落するのは提起した人物――今回の場合は羊谷ジン様ですね」


 そんなの・・・・・・提起する人はデメリットしか無いじゃないか。

 その可能性は頭から抜けていた。


 きっとそのルールを作ったのは運営だろう。

 その方が面白くなるから、といって。


「で、ジンは誰を神にするのー?」


 ユウリくんの問いに、ジンくんは神妙な顔に戻り、少し躊躇った後に口を開く。


「・・・・・・蛇見ナギサだ」


「ナギサだと・・・・・・?」


「そうだ。確実に『黒幕』ではないし、私としては贖罪の意味も含めて彼を神としたい。・・・・・・そうすれば、彼は生き返るだろう?」


「ジン・・・・・・お前・・・・・・」


 きっとジンくんは後悔していたのだろう。

 ナギサくんを殺したのは本当に想定外だったのだ、ということが見て分かる。


「では、神に対しての投票を行いますがよろしいでしょうか?」


「ああ。頼む」


 ジンくんが頷く。

 それを受けて、クウギョが再びヒレを開く。


「皆様、今から投票を行います。お手元の電子機器の投票アプリから選択して下さい」


 アプリを立ち上げ、僕は迷わず彼を選択する。


 数分後。


「はい。それでは投票結果を表示いたします」


 部屋の中が暗くなり、結果が表示される。



 蛇見ナギサ 5票

 無効票   7票



「蛇見ナギサ様が5票。そして無効票が7票。

 その為――全(・)員(・)一(・)致(・)と(・)な(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ので、羊谷ジン様は脱落となります」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


 ジンくんが呆けた声を放つ。


「なんだこれは・・・・・・無効票・・・・・・? こんなの絶対に成り立つわけがないじゃないか!」


 ダン、と机を叩きつけるジンくん。


「確かに全員一致が条件だったが、死んだ者も含めるなんてそんなの聞いて・・・・・・っ!」


 ハッとした表情でジンくんは顔を上げた。


「そういうことか! 『黒幕』は――」


 次の瞬間。


「むぐっ」


 下から現れた拘束具のようなモノが、ジンくんの口を塞いだ。


「脱落者にこれ以上語る権利は与えられません。処刑に移ります」


「!!」


 ジンくんの目が見開かれる。

 そして彼はキッとこちらの方向を強く睨み付けてきた。


 ・・・・・・何か伝えようとしてきている?


 その強い目線から、僕は彼の意思を読み取った。


 ――猫泉コータ。君なら分かるはずだ。必ず『黒幕』を見つけ出してくれ。


「・・・・・・」


 僕は無言で頷いた。

 分かったよ、ジンくん。


 君の思いは、僕が受け継ぐよ。


「それでは、羊谷ジン様の『処刑』を執り行います」


 その言葉が終わるのと同時に、拘束具により口を塞がれたままのジンくんの姿が消えた。

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