80話 4章 ~日常編~ - 12
カフェテリアに向かう途中は雑談も兼ねてマシロくんと話した。
といっても、最近は卵を使ったお菓子作りにはまっていることくらいしか情報は無かった。兄弟が多いと卵の使用数も半端ないので手を着けていなかったらしい。
そんなこんなを話しながらカフェテリアに着いた所だった。
「あれ? なんだこれ?」
マシロくんが小走りで中央のテーブルに寄っていく。ついて行くように駆け寄ると、そこには一枚のメモ紙があった。
「ってかよく見えたね。何かあったなんて分からなかったよ」
「ぼく、目はいい方なんだよね。・・・・・・って、それはともかく、何これ?」
マシロくんが怪訝に眉を潜める。
そこに書いてあったのは、確かにそういう表情になるのも無理はないものだった。
『みんなの部屋に封筒を置いておいたから、確認してほしい。
そこには俺が掴んだ、『黒幕』の情報に繋がることが書いてあるから。
ナギサ』
「ナギサくんがこんな置き手紙を?」
「そうみたいだね・・・・・・どうする?」
マシロくんが困ったような顔をしてのぞき込んでくる。
僕は少し考えこんで答える。
「みんなに伝えようか。どこにいるか分からないから、とりあえず手分けして探そう。僕は下の階、マシロくんはこの階と上をお願い」
「うん。分かった」
こうして僕達は急遽みんなを探すことになった。
各自の部屋に封筒が置いてあるらしい、という事を伝えるのだから、そもそもおいてある2階の部屋にいるのであれば後回しでいいだろう――そう考えた僕は1階を捜索する。
すると中庭に続く扉の前に、ジンくんがいた。
「ジンくん、ちょっといい?」
宝探しゲームのせいか、少し疲れた表情を見せていた彼に、カフェテリアにあった手紙のことを伝える。
「分かった。自分の部屋に行ってみてみる。道中、兎沢マシロ以外に会ったら伝えておく。――ああ、中庭には誰もいなかったぞ」
彼はそう言って階段を登っていった。
他の人を探して歩き回っていると、続いて出会ったのはチハヤくんだった。
彼は体育館にいた。
「おう、どうしたコータ?」
僕はカフェテリアの手紙の件を伝えた。
「・・・・・・ナギサが?」
チハヤくんは眉を潜めた。
「で、コータは部屋にあるっていう封筒を見たのか?」
「いや、まだ。それがあるってみんなに伝えている途中なんだ」
「そうか。・・・・・・ったく、回りくどいことせずに直接言えばいいのによ」
不満そうに頭を掻きながら、チハヤくんは体育館から出て行った。
はからずとも残りは1人。
ユウリくんを探しに僕は奔走した。
だが、一向に彼の姿は見つけられなかった。
地下の部屋も、1階の部屋にもどこにもいなかった。中庭をドア越しに見たが、誰かが動いている気配もなかったので、そのまま2階に上がる。
「あ、コータさん」
そこでちょうどマシロくんと遭遇した。
「どうだった?」
「こっちは誰もいなかったよ。戻り際にジンさんと会ったんだけど『既に猫泉コータから聞いている』って言われたよ」
「そっか。こっちはジンくんとチハヤくんに伝えたよ。あとはユウリくんだけだよ」
「そうなんだ。あ、そういえば当の本人のナギサくんも見かけなかったね」
確かに。すっかりと頭から抜けていたが、彼にも遭遇しなかった。
失念していたなあ、と思っていると、マシロくんは人差し指を立てて「ぼく、考えたんですけど」と自分の考えを述べてくる。
「それってきっと、『黒幕』の情報だから、その人から逃げている、ってこともあるんじゃないかな」
「あー、確かにそうだね。思いつきもしなかったよ」
となるとユウリくんがいないのは、彼を探しているから?
・・・・・・いや、それだとどこかで遭遇してもおかしくないから違うか。
「おーい、コータさん?」
目の前でぶんぶんと手を振られて、ハッとする。
「考え事していたよ、ごめんごめん」
「大丈夫ならいいけど・・・・・・じゃあ、ぼく、自分の部屋に行くね」
去るマシロくんの背中に手を振りながら、
「・・・・・・あ、そういえば、この階はまだ見てなかったな」
至極当たり前の事に気が付いた僕は、一番いる可能性が高そうなユウリくんの部屋の扉をノックする。
反応がないので声を掛けて中に入ったが、そこには誰もいなかった。
(ここにもいないならどこにいるんだ・・・・・・?)
混乱しながら彼の部屋から出た時、ふと思いついてその隣――ヒナタくんの部屋を覗いてみた。
すると
「すー・・・・・・すー・・・・・・」
すやすやと寝息を立てて、ベッドで寝ているユウリくんがいた。
・・・・・・なんでヒナタくんの部屋で寝ているんだ。
混乱が重なったが、とりあえず起こして要件を伝えよう。
「ユウリくん、起きて」
「うーん・・・・・・あ、コータだ」
身体を揺さぶると、ユウリくんはすぐに起きて伸びをした。
「せっかく隠れてお昼寝していたのに、なんで起こしたのさー」
「ごめんね。でもちょっと伝えたいことがあって」
「なあに?」
まだ寝ぼけているのか間延びしている声を返す彼に、ナギサくんが残したメッセージについて伝える。
「部屋になんかあるのー。んー、分かったー」
彼はすっくと立ち上がると、出口に向かってゆったりと歩き出した。
「あー、因みにこの部屋にはなんもないよー」
出る直前、ユウリくんはそんな言葉を残していった。
多分それは宝探しゲームのことであり、ナギサくんの封筒のことでもあるだろう。
ということは、後者については今はいないみんなの部屋の中にはなさそうだ。
そう予想を立てつつも確かめるために部屋を調べたが、彼の言うとおり何も出てこなかった。
ついでに隣のツバメくんの部屋も調べたけれど、何もなかった。
推論がほぼ確証になったところで、自分の部屋に戻る。
何か置かれているのかと思ったが、見た目上は特に変化は無い。
ただ、引き出しを開いた所、目的のモノはあった。
封筒だ。
早速開けようと手に取った。
だが、その手が止まる。
何故なら、その封筒の表に書いてあったからだ。
『18時までは開けないで』
どういうことだろうか。
でもまあ、そう言われるなら従おうか。
今は何時なのか分からないが、日はまだ暮れていないだろうし指定された時間にはまだなっていないだろう。
食堂に時間を見に行くべきか迷ったが、まずは相談も兼ねてユウリくんの元に訪れることにした。
部屋をノックする。
「だれー?」
「僕だよ」
「コータかー。入っていいよー」
ドアノブを捻った先にいたユウリくんは、手袋をした手で封筒の中身を読んでいた。
「え?」
「んー? どうしたのコータ?」
「あ、いや、僕の部屋にあった封筒には『18時30分までは開けないで』って書いてあったから」
「ユウリのも書いてあったよー」
「え?」
ユウリくんは丁寧に紙を折り畳んで封筒に入れると、自分にポケットにしまい込んだ。
「中身的には時間守っても守らなくってもどっちでいい感じだったよー」
「そうなの?」
「でも中身は教えないけどねー。あー、これコータだからじゃなくて、コータでも教えないよーってやつだからねー」
手袋を外しながら、にこっとユウリくんは笑顔を見せてくる。
その笑顔の圧力は、これ以上言っても見せないということを嫌というほどアピールしてきた。
僕は肩をすくめる。
「分かったよ。何が何だか分からないけれどね」
「まあでも分かるんじゃないかなー。封筒の指示に従ったらー」
ってなわけで、とユウリくんはベッドに飛び込む。
「まだ色々と時間があるし、ユウリはもう一眠りするよー。眠くて仕方ないからねー。おやすみー」
ユウリくんは目を閉じ、そのまま寝息を奏で始めた。
「・・・・・・」
あまりにも早い就寝にびっくりしながらもユウリくんの部屋を後にし、僕は食堂へと向かった。




