79話 4章 ~日常編~ - 11
保健室の掃除に予想以上に手こずってすっかりと時間が経ってしまい、気が付くと正午の昼食時間になっていた。
いったん作業を止めて昼食を摂って、その後も僕とチハヤくんは継続して保健室の整理をした。
「ふう。見違えて綺麗になったね」
「ってかよ、今更ながら俺様が飛び込む前ってこんな綺麗だったか?」
「あー、多分違うね」
「じゃあやったもん損じゃねえか!」
憤慨するチハヤくんだが、最後まできちんとやる所は真面目な部分があるのだろう。
ついでに時間が掛かったのは再度念入りに宝探しとして『黒幕』の情報が落ちている本やファイルの中に挟まっていないか確かめたのもあったが。
「思ったより時間食っちまったな。じゃあ俺様は宝探しゲームの続きをしてくるわ」
「うん。見つかるといいね・・・・・・って、ああ! 忘れてた」
思わず大声を出してしまった。
きょとんとしているチハヤくんに僕は問いかける。
「チハヤくん、朝起きた時に部屋の前に封筒が無かった?」
「ああ。あったな」
彼はごそごそとポケットから取り出す。
「『黒幕』の情報だってな。ただ意味分かんねえことが書いてあったんだよな」
「それって僕に見せてもらってもいい?」
「ああ、別に構わねえよ」
チハヤくんから封筒を受け取った僕はその中身を見る。
そこに書いてあったのは――
『黒幕は前回の宴の記憶を持っている』
「前回の宴の記憶?」
「ああ、意味分かんねえだろ。まるで俺様達と同じような目に遭った経験があるやつがいるみてえじゃねえか」
「本当だよね。何なんだろうね、これ」
突飛もない情報に混乱する。
(主催者は何のためにこんな情報を・・・・・・)
「そういや、お前も同じような情報あるんじゃねえか?」
その声にハッとする。
「うん。僕の方もこんなのがあったよ」
「同じ封筒か。内容は・・・・・・なんだこりゃ」
チハヤくんは顔を顰める。
「『黒幕』は俺達の中にいるんだから男に決まっているじゃねえか」
「そうだよね。だからハズレ情報なんだと思う」
「だなー。俺様のやつと同じでハズレだな」
チハヤくんのはそうなのかは判断付かない。
だが、この情報だけで誰かに結びつくなんてことはないので、頭の片隅に置いておくことにした。
「んじゃ、俺様は他の所探しに行くわ。じゃあな」
僕に封筒を返して、チハヤくんは保健室から出て行った。
一緒について行っても良かったが、チハヤくんの邪魔になってはいけないと思って出るタイミングを別にした。
(・・・・・・いや、木に登らされそうとか思ったわけではないが)
本心を内心に隠しつつ、僕は他の場所を見て回った。
いくつかの部屋を回ったが、『黒幕』の情報は見つからなかった。
もう調べ尽くされたんじゃないかと思い入った先で、1人の少年と出会った。
マシロくんだった。
彼がいた場所は、死体安置室だった。
彼はカプセルに囲まれた場所で、自分のスマホを見ていた。
「マシロくん、何しているの?」
「あ、コータさん」
マシロくんが顔を上げる。
その顔は少し青白かった。
「『黒幕』の情報を探しにここに来たんだけど、そこでみんなの名前を見て、ふと罪悪感が沸いてきたんだ」
「罪悪感?」
「ええ。これを見て」
マシロくんはそう言うと、僕にスマホを見せてきた。
その画面に映し出されていたのは、彼の――投票履歴だった。
根津アユムを神として認めるかどうか選択してください:賛成
牛場タケルを殺害した、犯人だと思われる人を選択してください:馬目サイ
虎賀ケンタロウを殺害した、犯人だと思われる人を選択してください:鳥羽ツバメ
猿島サスケが死亡した事件の、犯人だと思われる人を選択してください:犬飼ヒナタ
「サイさん、ツバメさん、ヒナタさん――皆さん、ぼくが投票をして殺した人達だよ」
「・・・・・・」
最初の根津くんについては違うが、他はそう言われれば確かにそうだ。反論の余地がない。
「そのことをきっちりと胸に刻んでおこうと思ってね。だから、みんながいるカプセルの前で、自分の罪を噛みしめていたんだ」
「でも、処刑を実際したのは主催者だよ。だからマシロくんの罪だなんて・・・・・・」
「うん、そうだね。でも処刑する人を選んだのは僕達なんだ」
彼は悲しそうに目を伏せる。
「勿論、他の人も同じでしょ、なんて言う気は無いよ。これはぼくの中だけの問題なんだ」
「そっか・・・・・・」
ならばそれ以上、何も言うわけにはいかない。
ただ、彼がそのまま落ち込んでいるのをこのまま見過ごすのもなんだか心苦しかったので、僕は話題を変える。
「そういえば、マシロくんも部屋の入り口に封筒とか無かった?」
「あ、そういえばあったよ。『黒幕』の情報が書かれていたよ」
やっぱり。
これで全員の部屋の入り口に、あの封筒があったということが確定した。
「その中身とかって見せてもらうことできる?」
「いいよ。・・・・・・あ」
マシロくんは口元に手を当てる。
「封筒、カフェテリアのエプロンのポケットの中に入れっぱなしだ」
「エプロン?」
「うん。最近、倉庫で見つけて、軽食を調理中はつけるようにしたんだ。で、その時になんか納めどころが悪かったからエプロンのポケットに入れたんだよ。すっかり忘れていた」
彼はすっくと立ち上がる。
「今から取りに行ってくる」
「あ、僕も一緒に行くよ」
頷くマシロくんの横に並んで僕は死体安置室を出て、カフェテリアへと向かった。




