78話 4章 ~日常編~ - 10
予想通りというか何というか、プールの中には『黒幕』の情報なんて無かった。
というか、ナギサくんが言った通り、お宝探しと言いながら宝の地図も何もないからノーヒントでこの建物内を探さなくてはいけない、不毛なイベントだ。
「・・・・・・確かにクウギョは一日限定のイベント、とは言っていないから、時間が掛かっても無理ないのかもな。むしろ、時間を掛けさせているような・・・・・・まあ、僕達には無限に時間があるから成り立っているんだけど」
独り言がはかどる。
当てもなく勘だけで色々と部屋を巡っているが、未だに1つも見つけられていなかった僕が次に入った部屋は、保健室だった。
普段はジンくんが陣取っている場所であったが、彼も宝探しゲームに参加しているからだろう、その部屋の中にはいなかった。
(まあ、既にジンくんは調べているだろうけれど)
そう思いつつも見逃しはないかと隅々まで確認する。
医学系だろう難解そうな本が置いてあったり、薬棚に戻す前っぽい薬品があったり、何やら錠剤があったり、もしかしたらジンくんが昼寝に使っているかもしれないクッションなんてものもあった。
だけど、やっぱりというかなんというか『黒幕』の情報は無かった。
調べ切れていない場所といえば、前にも見たことがある鍵の掛かった薬棚があるが、ここは勿論鍵がないので開かない。この中には『黒幕』の情報なんて置かないだろう。ジンくんに有利すぎる。
ひとしきり探してちょっと疲れたので、気分転換に外の景色でも見ようと窓辺まで足を運んで窓を開ける。
「あー、外の空気って美味しい気がする」
「あ? それは気のせいじゃねえのか?」
「いや、実際に美味しく・・・・・・ってええええ!?」
僕は思わず驚きで声を上げてしまった。
窓の外のすぐ近くの木。
そこにぶら下がるような形で人がいたのだ。
チハヤくんだった。
「何驚いているんだよ?」
彼は木の枝に手を掛けながら、眉をしかめた。
「いやいやいや! チハヤくん何でこんな所に!?」
「ああ? 宝探しに決まってんだろ」
それで中庭の木の上に登っているのか。
なんというか・・・・・・破天荒すぎる。
「というか、そんな所にあるわけ無いと思うよ。チハヤくん以外、こんな高いところまで登れないだろうし」
「いや、もう1人登れるやつがいるだろうよ」
「え? 誰?」
「ナギサだよ」
「ああ、確かに」
彼は巻くことが出来る『能力』だ。
ロープを結びつけたり掛けたりした後に、巻き付けて登ることも出来るだろう。
そのような発想はなかった。
「ナギサなら根性で登れるだろうよ」
・・・・・・そのような発想はなかった。
「それで、見つかったの? 情報?」
「いいや、何もなかったぜ。どうやら中庭にはなさそうだぜ。埋めて綺麗に地ならしとかしていない限りはな」
残念そうに首を横に振るチハヤくん。
「ってか、ぶら下がっているのも疲れたからそろそろそっち行くわ」
「え? そっち行くってどういう――」
「そっから離れていろよ、せーの」
彼は掴んでいる枝を中心にして、勢いよく身体を揺らし始めた。まるで鉄棒で大車輪を実施するかのようにどんどん勢いづけていく。
そしていよいよ勢いづけてこちらに飛ぼうとした、その時だった。
バキバキバキ!
「うおっ!!」
予想外に枝ではなく木の方が折れて、こちらに倒れかかってきた。
その衝撃で、チハヤくんは枝から手を離してしまい、そして
ガラガラ ガッシャーン!
保健室にあるものをなぎ倒しながら、部屋の中にダイブしてきた。
「いってー!」
「だ、大丈夫!?」
「ああ、なんとかラッキーだったな。まさか木が折れるとはな」
チハヤくんはどうやら無傷のようだ。
ほっと胸をなで下ろしながら、彼が飛び込んできた窓際に視線を向ける。
窓枠の外にぶつかり、木は制止していた。だが先程まで見えていた景色はすっかりと木々で見えなくなり、保健室唯一の窓であったため、光も碌に差してこなくなっていた。
「本当に何事もなくて良かったね・・・・・・」
「ああ。まあ、日頃の行いの良さが出たな。はっはっは」
豪快に笑いながらすっくと彼は立ち上がると窓際まで歩き、そして窓を閉じてカーテンを閉めた。
あまりにも手際の良さにぽかんとしていると、
「・・・・・・ジンには内緒な。なんかぐちぐち言われそうだし」
「確かに」
声は荒げはしないだろうが静かに言葉の嵐を浴びせてきそうな予想は十分に出来た。
それを同時に想像したのだろう、
「ぷっ」
「はっはっは」
僕とチハヤくんは同時に笑い声を上げた。
ちょっとしたハプニングはあったものの、少しだけ心が穏やかになった。
「んじゃ」
「いやちょっと待って」
そのまま立ち去ろうとするチハヤくんの後ろ髪ならぬシャツを引っ張る。
「このままの状態だとジンくん、怒ると思うよ」
「・・・・・・だよなあ」
散乱した部屋。
チハヤくんが飛び込んだせいだ。
「これを片付けようよ。手伝うからさ」
「分かったよ」
降参だ、というように両手を挙げてのポーズをして彼は落ちているものを拾い始めた。
が、すぐに、
「お、見てみろよ、これクロロホルムってやつらしいぞ。ドラマとかであるやつじゃねえか?」
「あー、確かに漫画とかで聞いたことがあるやつだ。ハンカチとかに染みこませるやつでしょ」
「だな。コータ、1回吸ってみるか?」
「やだよ。なんでそんな危ない薬を一緒にやろうみたいな言い方をするのさ」
不良みたいな見た目しているからなおさらだ。
「ん、実際危ない薬みてえだな。なんか注意書きみたいなの書いてあるけど、『大量摂取すると場合によっては心不全など死に至る恐れがあります』だってさ」
「え、怖っ・・・・・・って、薬ってそういうもんでしょ。大量摂取してよい薬なんてないよ。オーバードーズっていうんでしょ、そういうの」
「あー、確かになあ。でもこれって『経口摂取2.5~5.0mg』って書いてあるぞ」
「全然オーバーしなくても死ぬじゃん。ってかそれって気体状態じゃなくて液体状態での致死量なんだね」
そういう薬だということを知らなかった。
「それ、危ないからジンくんに鍵付きの所に入れて貰うようにするよ。僕が預かっておこうか?」
「ああ。お前なら他のやつを殺そうともしねえだろうし、渡しても問題ないからいいな。ほれ」
「わわっ!」
危ない薬だというのに投げて渡してきた。
「まったく! 割れたらどうするのさ」
「悪い悪い」
まったく悪びれた様子を見せずに、チハヤくんは口の端を上げながら片手で謝ってくる。
しょうがないなと思いつつ、他に危険な薬品が落ちていたり割れていないかを慎重に確認しながら、僕とチハヤくんは丁寧に保健室を掃除していった。




