76話 4章 ~日常編~ - 08
食堂を出てちょっと歩いたところ。
そこで僕は唐突に、あることに気が付いた。
「あ……ユウリくんと黒幕の情報が違う前提で話してたけど、部屋に差し込まれている情報だから同じ可能性もあったよね・・・・・・こっちの情報共有して確認した方が良かったな・・・・・・」
折り返すべきかどうか考え込みつつ1階の曲がり角に差し掛かったその時――
ふわっとした何やら柔らかい感触に当たった。
その突然やってきたあまりのふんわりとした感覚に、僕はびっくりして転んでしまった。
「大丈夫か、猫泉コータ?」
手を差し伸べてきたのはジンくんだった。
「あ、うん。ありがとう。ごめんね。考え事をしてて前を見てなかったよ」
「こちらこそすまない」
僕はその手を取って立ち上がるが、ふと違和感を覚える。
「あれ? ジンくん、なんにも持っていない?」
「ん? 何も持っていないが」
「あ、うん。そうだよね」
先程の感触は一体何だったのだろうか。見るからに彼の手にも、その周辺にも何もない。いつもと同じ白衣を羽織っている姿で、変化点と言えば、そのポケットから見える封筒くらいだろうか。
「ジンくん、その封筒は・・・・・・?」
「ああ、これか。これは『黒幕』の情報だ」
「『黒幕』の情報!? じゃあジンくんの部屋の前にもあったんだね」
「猫泉コータもか」
「うん。ほら」
僕もポケットから封筒を取り出す。
「ねえ、ジンくんのにはなんて書いてあったの?」
「いや、他の人に見せるのは・・・・・・と、猫泉コータならよいか」
ジンくんは封筒をポケットから取り出す。
「中の情報について、他の人には絶対に伝えない、という約束は出来るか?」
「何か理由があるんだね。・・・・・・うん。分かった」
頷くと、ジンくんは封筒を僕に手渡してきた。
そこに書いてあったのは――
『黒幕は神になろうとしている』
「ジンくん、これって・・・・・・」
「口には出すなよ、猫泉コータ。君にだけは見せていいと思った理由が分かるだろう?」
「うん」
書いてある通り『黒幕』が神になろうとしているのであれば、神になる権利を持たない『ネコ』は該当しない。
つまり僕は対象外だということだ。
「猫泉コータのはこれとは違うのか?」
「あ、うん。僕のはこれだよ」
ジンくんに自分の封筒の中身を見せると、彼は眉をしかめた。
「こんな当たり前のことしかなかったのか?」
「そうなんだよね・・・・・・やっぱりネコだからこの程度の情報しかもらえなかったのかな」
「可能性はあるな。ただ、私と同じようなケースを考えれば、この情報で除外できる人物がいるということだが・・・・・・流石に死んだ者も含めて女性はいないだろうな。少なくとも私が検死した3人ではないのは断言できる」
実際に身体を確認したジンくんが言うなら間違いない。
「うーん・・・・・・でも僕達の中に女性がいたとは思えないよ。だからただのハズレ情報なんじゃないかな」
「その可能性が高いな。いずれにしろ他の情報を手に入れて傾向を確認したいところだ。では、私は探しに行くとする」
ジンくんは僕に背を向けると、すたすたとその場を離れていった。その早さたるや僕が声を掛ける暇も与えないほどだった。
(それ程、黒幕の情報がほしいってことか)
ナギサくんといい、ジンくんといい、本気で『黒幕』を探している様子から、当人がその『黒幕』だとは思えない。しかし、それもポーズの一種なのかもしれなくて――
――などと、また深く考え込んで意識もそぞろのまま、僕は当てもなく他の場所へと歩いて行った。




