74話 4章 ~日常編~ - 06
それから数日、いや――それどころじゃなく、1ヶ月ほど。
その間、事件は起こらなかった。
定時に起床し、三食を摂り、定時に寝室で眠る。
この繰り返しであった。
その間、時折会話はあったものの、争いなどは全く起きなかった。
一番明瞭だったのは、チハヤくんだ。
彼は言った通り、タケルくんの真似を止めた。
それどころかケンカ腰の態度も取らなくなっており、見るからに覇気が無くなったような感じになっていた。
「これが本来のチハヤくんだよ。元々、誰にでも噛みつくような人じゃないんだよね」
ナギサくんに訊ねると、そんな返答が来た。
ただ、元気がないように見えるのは心配している様子で、時折会話はしているようだった。
そういう様子が分かるのは、夕食時に全員集まって会話しているからだ。
初日からずっと続いているこの習慣は、この状況になっても継続していた。
ただ、当初の目的である情報共有については、もはや形骸化していた。
新規情報が何もないからだ。
だから自然に、新規情報について問う流れはなくなっていた。
そんな凪のような時を過ごしていた中。
事態を動かそうというものがいた。
「皆さん、もう1ヶ月以上経過していますよ、これでよいのですか?」
いつものように食事をしていると、クウギョが唐突にやってきてそんなことを言ってきた。 みんなはしらけた視線を向ける。
「これでよい、とは何だ、クウギョ?」
「1ヶ月以上、円卓会議が行われておりませんよ。皆様、元の世界に戻りたいのではないのですか?」
その問いかけに反応する人は誰1人いなかった。
「おいおい、なんだ? 主催者に言われているのか? 殺し合いをしろって?」
「まあ、端的に言えばそういうことですね」
思わぬクウギョの答えにチハヤくんは目を丸くした。
「・・・・・・何だよ。直接的に言うじゃねえか」
「もうなりふり構っていられませんからね。主催者から、皆さんの動きがないことにクレームが入っておりますので」
もうクウギョも隠す様子は見せなかった。
主催は、僕達の殺し合いを楽しんでいる。
「ならどうするの? おれ達に無理矢理にでも殺し合いをさせる?」
ナギサくんが鋭い目を向けると、クウギョは顔を横に振る。
「直接的なことはしませんよ。ワタクシ共が行うのは、きっかけを提供するのみですから。――ということで、告知いたします」
クウギョがヒレを広げる。
「明日、宝探しゲームを開催します」
――静寂。
後に、
「はあ? 何言ってんだ?」
チハヤくんが真っ先にみんなの代弁者となった。
「皆さん、変わらない日常に退屈していそうですし、ここら辺りでイベントを開くのが、宴の運営としてよいかと思いまして」
「え、えっと、強制参加なの・・・・・・?」
おずおずと手を上げるマシロくんに、クウギョは「いいえ」と返す。
「このイベントは強制ではありませんので、参加しなくてもよろしいです」
「だったら誰も参加しないだろう」
くだらない、といった様子でジンくんが席を立つ。
「賞品はあなた方の言う『黒幕』の情報になります」
――再び、時が止まったような錯覚に陥った。
今、なんて言った?
「・・・・・・クウギョ」
ガタッ、と音を立ててナギサくんが立ち上がる。
「聞き間違えじゃなかったらなんだけど、今、『黒幕の情報』が賞品、って言った?」
「ええ。その通りです。嘘偽りのない情報になります」
「どんな情報なんだ?」
「それは、宝探しで見つけ出した方だけの特権になります」
「なるほどねー」
ユウリくんが手をポンとついた。
「何でそんなことするんだろうって思ったけど、この中にいる『黒幕』も対象だから、その人が最初に見つけてしまえば、その情報に嘘を交えることが出来るもんねー。『黒幕』にとっても都合のいいイベントってわけかー」
「そういうことになりますね。説明を省けて助かります」
「じゃ、じゃあ、参加しなかったら『黒幕』じゃないってことでいいよね?」
「いいえ。それを見越してわざと参加しないことも考えられますよね」
「あああ・・・・・・じゃあ参加した方がいいじゃん・・・・・・」
マシロくんが頭を抱える。
彼の言う通り、この『宝探しゲーム』は任意参加と言いながら、実質強制参加となっている。
その『強制』の範囲は、『黒幕』も対象だ。
このままだとお前の正体が割れるぞ――と。
何かしらが動く。
それは間違いない。
それがいい方に動くのか悪い方に動くのか――
「では、明日開始しますので、皆様、お楽しみにしてくださいませ」
クウギョはフヨフヨと食堂から出て行った。
「・・・・・・」
その場に残された僕達は、なんとも気まずい雰囲気に包まれた。
この中の誰かが『黒幕』である。
その事実を改めて突きつけられたようで――
・・・・・・いや、待てよ。
クウギョは「この中に黒幕がいる」とは明言していない。
つまりこれは僕達を疑心暗鬼にさせる策略なのかもしれない。
いやでも、それが逆に――
――そんな風に頭の中でぐるぐると考えを巡らせている内に、いつの間にか食堂から人はいなくなっていた。
そのことに気が付いた後も、誰かに話しに行く気も起きずに、僕はそのまま自分の部屋野中でぼーっと過ごし、そしてクウギョのアナウンスと共に就寝した。




