70話 4章 ~日常編~ - 02
みんなを探しに行くならば居そうな場所へと向かおう――
そう思った僕は真っ先に地下へと向かい、体育館の扉を開いた。
「あれ?」
しかし、そこには誰もいなかった。
首を傾げながら電気室に向かうと、そこにはお目当てとは違う人物がいた。
「ジンくん、ここで何をしているの?」
「猫泉コータか」
ブレーカー前にいた彼は白衣を翻しながら、こちらに身体ごと視線を向ける。
「いやなに、今回、ブレーカーが落とされただろう。ここに何かを仕掛けられたりしていないかどうか、気になってな」
「あー、仕掛けは簡単そうだよね。低い位置にあるし」
「こういうのは一度気になるとどうしても確認したくなる。これから毎日見に行ってしまいそうだ」
確認、という単語で、ふと思い出した。
そうだ。みんなに確認したいことがあったのだ。
「ねえ、ジンくんって、元に戻りたいと思う?」
「元に、とはここに来る前の状態か?」
「うん」
「・・・・・・どうだろうな」
ジンくんは顎に手を当てて考え込む。
「猫泉コータには前に言ったな。私の家庭についてはあんな感じだ。だから戻りたいかと言われれば、今は疑問の方が勝る」
ジンくんの家庭は、いわば『教育虐待』を行っていた。
はからずとも彼は、その中である種の洗脳状態だったのかもしれない。
それが解けたならば、積極的に戻るべきという発想にならないのはごく自然だろう。
「だが、このままの状態が永遠に続くのもよろしくないとは思っている。故に私ははっきりとした答えが出せないのだ」
「そうだよね。僕も同じ気持ちだよ」
そう言うと、ジンくんは柔らかく笑みを見せた。
「ここに残っているのは、もうそういう人たちばっかりなのかもしれないな、猫泉コータ。――君はどうなんだ?」
「僕?」
唐突に問いかけられて、僕は目を丸くする。
「そうだ。むしろ『神』になる権利を与えられていないのにこんな宴に付き合わされている君は、この状況をどう思っているのだ? 早くここから出たいのか、それともこのままでいいのか?」
「・・・・・・分からないよ」
首を横に振る。
「最初はこんな所から早く出たいと思っていたよ。でも、自分から出られないんだよ、僕だけは。だから、なるようにしかならない、って感じだし、そこに何らかの思いなんて既にないよ。
こんな異能力ありの殺し合い推理ゲームで、無能力者はどうすればいいのかな?」
「・・・・・・すまない、そうだったな」
ジンくんが気まずそうに目を伏せたので、僕は慌てて弁解する。
「ああ、違うんだよ。どうすればいいかって言ったけど、殺人を起こさないようにみんなに話しかけようって思っていた所なんだよ。ほら、殺人が起きなければ僕が犠牲になることだってないでしょ」
「・・・・・・」
汗がだらだらと流れる。
何も考えなしに喋ったからおかしな所はなかったかな、と省みていると、
「その心構えはとても良いと思うぞ、猫泉コータ」
ジンくんは僕の方に、ポン、と手を置いた。
「さて、ここにいても何にもならないし、私はそろそろ保健室に戻ろうと思う」
「ああ、うん。保健室がすっかり根城になっちゃってるね」
「根城ではあるが寝所ではないぞ。まあ、だからといって保健室で死体が発見されたら、私が犯人だという決めつけはしてくれるなよ」
「大丈夫だよ。というか、その前にもう事件なんて起こさせないよ」
「・・・・・・ふ。そうだったな。では失礼する」
口の端を上げてジンくんは電気室から出て行った。
僕は彼が退室していったのを見届けた後、ふと目線を下にやる。
すると、そこにあったのは血の跡だった。
だが、すっかり乾いている。
この跡について、僕は以前にも見ている。
これはサスケくんの血だ。
「・・・・・・なんとかしないと・・・・・・」
僕は拳を、ぎゅっと握りしめた。




