69話 4章 ~日常編~ - 01
サスケくんの事件から数日後。
僕は暗い気分をまだ引きずっていた。
いや、今までもそうだったが、今回は流石に来ない方がおかしいだろう。
かといって何か新しいことをする気もせず、だらだらと過ごしていた。
他の人も取り立てて何もない日常を過ごしているようだ。
それも仕方ない。
もう既に6人しかいないのだ。
チハヤくん。
ナギサくん。
マシロくん。
ジンくん。
ユウリくん。
それに、僕。
はじめは13人いたのに、今はこれだけ。
その事実が心を更に落ち込ませる。
そしてもう一つ。
心を曇らせている事実があった。
それは、黒幕の存在だ。
こんなことに巻き込んだ張本人が残っているのだ。
みんな口にしていないが、黒幕が誰なのかを探している。・・・・・・気がする。
そんなピリピリとした雰囲気が、みんなが集まる晩ご飯の時にも発せられていた。
――ただ1人を除いて。
「みんなー、雰囲気暗いよー。元気出してー」
ユウリくんだ。
彼は相変わらず、僕の横で嘆きの声を上げる。
暗いと嘆くのはこの前もやっていたような気がするが、しかしその通り、食堂の今の雰囲気は活気がないのは間違いない。
席も僕とユウリくんが一緒のテーブルだが、他のみんなは別々のテーブルなので会話などほとんどなかった。
(まあ、明るくしろって方が無理だよな)
ツバメくんがいなくなってからは控えめになっていたが、サスケくん、ヒナタくんの2人が何かケンカをして騒がしくしていたのは、ある意味雰囲気を良くしていたのだと実感する。 特にサスケくんは、努めて明るく振る舞っていたのだということを、いなくなってから実感する。
「・・・・・・」
誰もユウリくんの声かけに反応せず、むしろそれをきっかけに食事の席を立つ人が続出した。
残ったのは、いつものように僕とユウリくんのみ。
「サスケの事件からみんなずっとあんな感じだよねー。気が滅入って来ちゃうよー」
むすっとした表情で、彼は残っていた食事を口に詰め込んだ。
「仕方ないよ。3回も円卓会議が行われるとは思っていなかったんだ。みんな疑心暗鬼にもなるよ」
「疑心暗鬼なのは、黒幕の件もあるんじゃないのー?」
「それもあるだろうね」
ふと気になったので聞いてみる。
「ねえ、ユウリくんは黒幕、誰だと思うの?」
「んー、今の所誰もピンと来ないねー」
フォークをくるくると回すユウリくん。
「だって黒幕って何がどうだったら黒幕だって断言できるのかー、って感じだし、分からないよねー。隠し事がある人なんて全員そうだし」
「全員・・・・・・」
きっとそれは僕も含んでいるのだろう。
「でもだからといってユウリセンサーに、びびび、って来るモノはないんだよなー。黒幕は凄いな天才だ強いなー」
「なんで黒幕を褒めているのさ」
「こういうのあれっぽくない? ホームズとモリアーティみたいな」
「へえ、ユウリくん、ホームズ読んでたんだ」
「家に本はたくさんあったからねー。いい暇つぶしだったよー」
そういえば、ここではないユウリくんについて聞いたことはなかったな。
「ユウリくんの家って、結構大きかったの?」
「うん。かなり大きな家だったよー」
「そうなんだ。資産家だったの?」
「資産家? お父さんは国会議員だったよ」
「国会議員! すごいね! ……ってあれ?」
僕は思い返す。
「前、お父さんもお母さんも生まれる前からいなくておじいちゃんに育てられた、って言ってなかった?」
「ああ。あれ嘘だよー」
「嘘!?」
「あの時はまだコータでも、自分のことを話したくなかったからねー。だからこれ以上言及できないような嘘をついたんだー」
「そうなんだ……」
でも今は話してくれるほどに信用してくれた、ってことだよね。
(……それは嬉しいな)
「まあ、実はユウリは会ったこと一度も無いから、いなかった、ってのもあながち間違いじゃないんだけどねー」
「忙しくって、とか?」
「ううん。ユウリ、いわゆる愛人の子だからねー」
耳を疑ってしまった。
思わず絶句してしまっていると、ユウリくんは気にした様子もなく話を続ける。
「いわゆる存在しちゃいけない子だったんだよねー。だからめっちゃ管理されてたんだよねー」
「それって、監禁されていたってこと・・・・・・?」
「んー、監禁じゃなくて、監視、かなー。何せ存在自体がお父さんにとってスキャンダルだからねー。余計なことをしないように立派な家を与えて、動向をチェックさせていたんだよねー」
「それって、いつ気が付いたの?」
「んー、小学校高学年の時くらいかなー。お母さんが残していた日記を見つけてさー。それで理解した、って感じかなー」
なんてことないよ、みたいな口調で語っているが、それは想像を絶する状況だということに、僕は気が付いていた。
お母さんが残して「いた」日記。
この言葉から推察するに、もうユウリくんのお母さんは――
「色々と納得したよねー。なんでこんなでっかい家にいるんだー、ってね。その後は大人しく優秀な子になっていたよー。そうしないと追い出されそうだったしねー」
「それって、お父さんと同じように政治家の道に進めるように、ってこと?」
「んーん、違うよ。だってそうしたらユウリのことがバレちゃうじゃん。かといってグレたりしたら秘密をバラされるかもって消される可能性もあるじゃん。だから――どっちにもならないように、色々と調整したんだよー」
ユウリくんは、にこにことした表情のまま語る。
「だからね、ユウリは、ここにずっといてもいいと思っているんだ」
「え?」
「だってここから出られても、また息苦しい世界に戻るだけじゃん。だったらここにいたままでもいいかなー、って。まあ、人を殺してまで出ようとは思わないよねー」
「人を殺してまで、ってのは同意だけど・・・・・・」
それでも、状況に追い詰められて殺人をしてしまった人がいるのだ。
いつそうなるのかが分からない。
「残っている人たち見ても、みんな同じ感じじゃないかなー」
そんな僕の考えていることはお見通しとばかりに、ユウリくんはそう言ってきた。
「というか、そういう傾向があったのはヒナタだけだったしー、ヒナタの様子を見ればみんなそういう気持ちは収まっているでしょー」
「それは・・・・・・でも、表に出ていないだけで不安定な人が居るかもしれないよ」
「そういう人はもう爆発していると思うよー。ツバメとかねー」
「・・・・・・」
比較的仲が良かった人の名前を上げられて、僕は言葉に詰まる。
確かに、ユウリくんの言うことは一理ある。
だからこそ――
「・・・・・・なんとかしてあげられなかったのかなあ・・・・・・」
「無理だねー」
即答だった。そこに何の躊躇いも気遣いもなかった。
いくらユウリくんでもそれは傷つく言い方だ――そう思って口を開き掛けた所で、
「過去のことはもう変えられないよー。だったら今は、未来でどうするべきなのか、を考えた方がいいんじゃないかなー」
「っ!」
目から鱗が落ちた。
「そうだよ・・・・・・そうだよね。後悔しても何もならないから、これからそうならないようにすればいいんだよね」
「お、なんかコータが元気になったー。よかったねー」
にへら、という屈託のない笑顔をユウリくんは向けてくる。
僕も笑顔を返し、席を立つ。
「ちょっとみんなの様子を見てくるよ。ユウリくん、ありがとうね」
「あー、うん。いってらっしゃーい」
手を振るユウリくんに背を向け、僕は食堂を出た。




