66話 3章 ~真実~
それは先程の映像の続きだった。
ヒナタくんがサスケくんの左胸にキューを刺した後。
布の影響もあって返り血が全く無かったヒナタくんは、そのまま声も出さずに背中を向けて娯楽室を走って出て行った。
娯楽室の扉が閉まって少し後、
「・・・・・・っ・・・・・・」
サスケくんが身体を起こした。
そして片手を口に当てたまま、胸に刺さったキューを抜く。
傷口から血が噴き出し、娯楽室を赤に染める。
それ程なのに、サスケくんは叫び声を上げなかった。
いや、上げさせなかった、というのが正しいだろう。
自身の能力で。
肩で息をしながら、サスケくんはビリヤード台を背中で押し、そして扉の前まで移動させた。
ビリヤード台が完全に扉と接した所で、力が抜けたようにずるりと床に座り込んだ。
「・・・・・・はあ・・・・・・はあ・・・・・・」
そこで口元からも手が離れる。
「あぁ・・・・・・指紋取れるやつとかあるんだった・・・・・・」
近くに落ちていたビリヤードのキューを手に取ると、自身から流れ出た血だまりの中を転がし始める。
「・・・・・・力が・・・・・・」
キューが手を離れる。
力なく腕がだらりと垂れる。
「・・・・・・」
サスケくんは目を閉じる。
まるで死を受け入れているかのように。
「あ・・・・・・そうだ・・・・・・」
と。
唐突に彼は口を開いた。
「クウギョ・・・・・・いるっすか・・・・・・?」
「はい」
すぐさま、フヨフヨとクウギョが現れる。
「死ぬ前に、確認したいことがあるっす・・・・・・」
「なんでしょうか?」
「このまま死んだら、犯人は誰になるっすか?」
「犬飼ヒナタ様ですね。恐らくですが、その胸の傷による出血死となりますので」
「それは・・・・・・全部見てた上での判断・・・・・・っすか?」
「はい。猿島サスケ様が龍崎チハヤ様を暗闇で襲い、投げられた包丁が刺さったものの深い傷にはならず、停電の暗い中、娯楽室の中で自ら包丁を深く刺し込んでいたことも、その後に犬飼ヒナタ様を刺すように誘導していたことも把握した上で、最終的に傷を負わせた犬飼ヒナタ様が犯人であるのが妥当という結論です」
「そうっすか・・・・・・そこまで細かく見ていて判断してくれたならいいっす」
その答えを聞いてサスケくんは安心したように微笑んだ。
「あとあれなんすね・・・・・・黒幕はまだあの中にいるんすね」
「はい?」
「だってさっきのを言うってことは、暗闇の中の様子を見てたってことじゃないっすか。それって黒幕が誰がどういう行動しているかをきちんと監視していて、円卓会議の時に有利にことを運ぶため、っすよね?」
「そのようなことは決してしておりません。事件への円卓会議については、皆様、平等になります」
「・・・・・・はは」
サスケくんはしてやったりという表情になる。
「その言い方じゃあ、本当にあの中に黒幕が残っているって言っているようなものっすよ」
「・・・・・・」
「だとしたら・・・・・・多分、あの人っすかね」
「・・・・・・」
クウギョはそのまま何も言わずに部屋を出て行った。
「・・・・・・流石にこれ以上のブラフは効かないっすか。まあ知ったところでもう死ぬから意味ないっすけどね」
ははは、と乾いた笑い声を出す。
「・・・・・・チハヤっちには悪いことしたっすね。反撃してくれるのはチハヤっちだけだったし・・・・・・まさか投げて的確に傷つけられるとは思ってなかったっすけどね」
腹部の包丁に触れる。
「その後に娯楽室にヒナタっちがいなかったら、自死にしようと思ったんすけどね・・・・・・まあ、俺っちが娯楽室のものの片付けをお願いしたからいて当然か」
それでもきっと、タイミングが合わなかったら遭遇していなかっただろう。
「あーあ。全部悪い方向に出ちゃったっすね。結局、ヒナタっちに殺させることになったし・・・・・・ヒナタっちを救おうと思ったのに、本末転倒っすね・・・・・・」
いや、と首を振るサスケくん。
「もうヒナタっちは限界だったっす。どういう形であれ、もうここから出してあげたかったっす。・・・・・・俺っちのエゴっすけどね」
あはは、と再び笑い声を上げる。
「にしても、きちんと左胸を刺すのはある意味流石っすね。その覚悟、きちんと・・・・・・受け・・・・・・」
彼の目が唐突に虚ろになる。
「あ、もう駄目っぽいっすね・・・・・・あと何か・・・・・・俺っちが自殺であるように見せつけられる為に必要なことって何かあったっすかね・・・・・・やば・・・・・・なんも・・・・・・考えられないっす・・・・・・」
サスケくんの瞼が、ゆっくりと閉じられる。
「・・・・・・ああ」
そして。
最期に彼はこう呟いた。
「――ケンカ、楽しかったなぁ・・・・・・」
◆
「――以上が、猿島サスケ様が絶命した時の映像です」
クウギョの言葉が空虚に響く。
サスケくんの最期の言葉は、ヒナタくんに。
そしてもう一人――ツバメくんに向けられたものだろう。
もしかすると僕とユウリくんも含まれていたのかもしれない。
しかしながら、彼はここでの生活にある種慣れ、というか満足さも覚えているようだった。
それでも、このようなことを実行したのは、間違いなく――
「うわあああああああああああああああああああっ!」
叫び声が響き渡る。
ヒナタくんだ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 自分が落ちこぼれだから! だからうまくいかなくて何も出来なくて・・・・・・自分の・・・・・・自分のために・・・・・・」
ヒナタくんも気が付いたようだ。
サスケくんがこんなことを実行したのは、ヒナタくんが苦しんでいたから。
彼のために、凶行に走ったのだ。
「自分は意地でも生きなきゃいけなかったんです! 何で諦めてたんだ! 何をしていたんだ! どうして自分は・・・・・・自分は・・・・・・」
ガンッ! と頭を円卓の机にぶつけて、ヒナタくんはみんなに向けて言う。
「お願いです! 再投票しましょう! 自分じゃなくてサスケさんに入れてください! そうすればここの誰も処刑されずにすむしサスケさんも生き返る! 死んでしまった皆さんだって生き返らせます! こんな生活も終わりになります! だから! 今からもう一度――」
「駄目です。既に投票は終了しております」
ピシャリ、と、クウギョは却下した。
「これ以上長引かせても意味がありませんし、これから犬飼ヒナタ様の『処刑』を執り行います」
その言葉と共に、ヒナタくんの座っていた椅子が彼の身体を拘束する。
「嫌だ・・・・・・死ぬわけにはいかない・・・・・・自分はサスケさんを生き返らせなきゃいけないんです! サスケさんの死を無駄にするわけにはいかないんです!」
「それでは、皆様、しばしお待ちください」
「いやだあああああああああああああああああああっ!!」
悲痛な叫び声と共に。
ヒナタくんは、彼の真下に開いたスペースへとと吸い込まれていった。




