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65話 3章 ~真相~

 最初に映し出されたのは、ただ真っ暗な部屋。


「早く片付けたいのに、停電は困りますね。誰か復旧させてくれているのでしょうか」


 ヒナタくんの独り言が聞こえる。


 と、そこで、ガタン、と音が聞こえる。


「え? な、なんですか!?」


 怯えた声を放つヒナタくん。


 数秒後、電気が点く。


「よかった。電気が・・・・・・って、え!?」


 屈み込んでいたヒナタくんが驚きの声を上げる。

 それは娯楽室の床に座り込んでいる人物を見つけたからだろう。


 ――腹部に包丁が刺さった、サスケくんを。


「サスケさん! 一体どうしたんですか!?」

「はは。やっぱりここにいたんすね・・・・・・よかった・・・・・・」


 心配そうに駆け寄ってくるヒナタくんの顔を見て、サスケくんは汗だくになりながら微笑む。


「まあ俺っちが娯楽室の道具を片付けるように言ったっすから当たり前か・・・・・・」

「な、何を言っているんですか!? 早く治療を――」

「無駄っすよ」


 サスケくんは力なく首を横に振る。


「もうこの傷は致命傷っす。治療なんて出来無いっすよ」

「そんな・・・・・・」


「・・・・・・だから、さ」


 サスケくんは這いつくばって、布とビリヤードのキューを手に取ってヒナタくんの目の前に置く。


「ヒナタっち。君が俺っちを殺してくれないっすか?」


「は・・・・・・?」


 数秒の沈黙。


「え・・・・・・? 今、なんて・・・・・・?」

「布越しに刺せば血は飛び散らないだろうし、誰が殺したかなんて分からないと思うっす。このタイミングなら俺っちを刺したやつが犯人だと思われるだろうし、ヒナタっち、君が俺っちを殺して神になってくれないっすか?」

「そんなこと出来るわけ無いじゃないですか!」


 ヒナタくんは激高して掴みかかろうとする。

 だがそれをサスケくんは手で制す。


「駄目っすよ。掴みかかったら俺っちの血が付いちゃうっす」

「っ!」

「頼むっすよ。俺っち、このままただで死にたくないっす」


 ゴホ、と咳をして口元に手元に手をやると、その手には血がべっとりと付着していた。

 それを見てヒナタくんは動揺を隠せない様子だった。


「サスケさん!」

「ヒナタっち・・・・・・俺っちは、どうせなら、ヒナタっちに神になってほしいっす」

「なんで・・・・・・?」

「友達だからっすよ」


 サスケくんは力なく笑顔を見せる。


「他の誰かよりも、どうせならば友達に神になってほしいっていう、俺っちのわがままで、最期の願いっす」

「最期の願い・・・・・・」

「そうっすよ。最期っす」


 這うように移動して、サスケくんはビリヤードのキューを拾うと、先端のカバーを外してそれを自分の方に向けながらヒナタくんに渡す。


「俺っちの命も残り少ないっぽいっす。だから早くやってほしいっす」

「でも・・・・・・」

「お願いっす。顔を見れないならばこうやって布で隠すんで」


 サスケくんが布を広げる。

 その手は震えていた。


「・・・・・・分かりました」


 ヒナタくんはビリヤードのキューを握りしめた。


「サスケさん、君の望みは、自分が叶えます」

「うん。ありがとう、ヒナタっち」


「自分が、サスケさんを、殺します」

「うん」


「サスケさん」

「なんすか?」


「ごめんなさい」

「はは・・・・・・なんでヒナタっちが謝るっすか?」


「だって・・・・・・」

「謝るなら俺っちの方なんすよ。こんなことをさせているんすから」


「そうですね。なんでこんなことさせるんですか」

「仕方ないじゃないっすか。俺っちの友達になっちゃったんすから」


「友達・・・・・・」

「あれ? 違ったっすか? 死ぬ間際くらい嘘ついてくださいっすよ」


「そうですね。友達ですよ」

「はは。このタイミングで言うと嘘っぽいっすね」


「・・・・・・」

「・・・・・・さて、そろそろお願いっす」


 布で顔の見えないまま続いていた、穏やかな会話が途切れる。


「・・・・・・嫌です」


 ぽろぽろ、と。

 ヒナタくんの目からしずくがこぼれ落ちる。


「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

「・・・・・・だからなんでヒナタっちが謝るっすか」


 とても優しい声音でサスケくんはそう言う。


「そうっすよね。流石に人なんか殺せないっすよね。無理言ってすまな――」

「違うんです!」


 ヒナタくんはかぶりを振る。


「嫌だって言うのはサスケさんがいなくなることで・・・・・・自分、何も役に立てなくて嫌だってことで・・・・・・」

「・・・・・・」


 そこでサスケくんは大きく息を吐いた。


「なーに言っているっすか。この馬鹿犬は」

「ば、馬鹿・・・・・・!?」

「申し訳ないっすけど馬鹿としか言いようがないっすね。このままだと俺っちは死ぬっすよ」

「それは・・・・・・」


「だから――神になって俺っちを生き返らせてくれ、って言っているんすよ」


 ヒナタくんはぽかんと口を開ける。


「自分が・・・・・・神に・・・・・・?」

「そうっすよ。ヒナタっちが神になってくれれば、俺っちはある意味助かるんす」

「神になってサスケくんを生き返らせられるから・・・・・・」

「ヒナタっちは俺っちを刺した人が誰かは知らない。知らないが故に、その人が犯人として指名されるんで、このまま誰にも見つからなければいけるっすよ」

「・・・・・・そうなんですね・・・・・・」


 ふるふると首を振って、キッと顔を上げる。


「自分が、サスケくんを救うんです・・・・・・自分が・・・・・・自分が・・・・・・」


 肩で息をしながらヒナタくんはビリヤードのキューを握りしめて構える。


「自分がああああっ――」


 ヒナタくんが声と共に勢いよくキューを突き刺そうとした、その時――彼の声が途中で途切れた。


 その理由は、すぐに分かった。


 サスケくんとヒナタくんの間にあった布が、ペラリと片方めくれたからだ。

 見ると、サスケくんが片手を、口に置いていた。


 サスケくんは『能力』を使ったのだ。

 『言わざる』の『能力』で、ヒナタくんの言葉を止めたのだ。


 ――駄目っすよ、大声出したらバレるじゃないっすか。


 めくれた布から見えたその表情は、まるでそんなことを悠然と語っているような、穏やかな笑顔だった。


「――っ!」


 言葉にならない――いや、言葉として出ない声を内面に放っているような表情で、ヒナタくんは勢いよくビリヤードのキューをサスケくんの左胸に突き刺した。




                ◆




「――以上、これが昨晩、娯楽室で行われていたやり取りになります」


 部屋の明かりが点く。


「・・・・・・全部ばらしちゃうんですね」


 ヒナタくんが目を伏せる。

 ということは、このやり取りは事実だということだ。


「猿島サスケが、提案したことだったのか・・・・・・」


 信じられないというような声で、ジンくんは眉間に皺を寄せる。


「猿島サスケはどうしてこんなことを・・・・・・」

「自分にも分からないですよ。今思えば、かなり焦っていましたしね」


 そこでナギサくんがハッとした表情になる。


「まさか、これを計画したのはサスケクンだから、犯人はサスケクンだってことはないよね?」

「あっ・・・・・・」


 ナギサくんの言う通りだ。

 手を下したのはヒナタくんでも、実質の犯人はサスケくんということになる。


 悪趣味な主催者がわざわざ見せつけたのだ。その可能性も――


「それはありません。映像を見てもらった通り、実際に致命傷となる傷を与えたのは、犬飼ヒナタ様なのですから」


 あっさりとクウギョは否定した。


「あ、え? そうなんだ」


 ナギサくんが拍子抜けしたような声を出すと、その横からチハヤくんが問う。


「だったらよ、結局はヒナタが犯人だってことじゃねえか。何でこんなもんを見せたんだよ?」

「その方が、より面白くなるから、とのことです」


 クウギョが他人事のようにそう言う。


 いや、実際他人事のなのだろう。

 主催者の言葉なのだから。


(何が、より面白くなる、のか・・・・・・)


 心の中で反発の声を上げたところで

 


「それでは、皆様にはこ(・)の(・)続(・)き(・)をお見せいたします」


 クウギョは唐突にそう言うと、部屋が暗くなった。



 そして僕は、主催者の悪意を知ることとなる。

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