64話 3章 ~処刑前~
「これ以上は何もないですよ。自分がやったのはそれだけです」
淡々とした口調で語ったのは、本当にそれだけだった。
何もかもが分からない。
「ヒナタくん・・・・・・なんでサスケくんを殺したの?」
「理由ですか? そんなの、瀕死でそこにいたからですよ」
「そんなわけないでしょ・・・・・・だって君は、サスケくんのことを・・・・・・」
「そうですよ。友達だと思っていましたよ。特に大切な」
「だったら」
「それでも――それよりも、神になってここから出たかったんですよ」
ヒナタくんは無表情のままそう口にする。
まるで今までの彼が嘘で固められていたかのように。
こっちの彼が、まるで本当であるかのように。
「合理的だな、犬飼ヒナタ」
ジンくんの表情も心なしか暗い。
「私が見習うべき合理さだが、君がそれを持っているとは思えない。それも嘘ではないか?」
「さあ? 嘘かどうか、ジンさんには分かるのですか?
――自分でさえ分からないのに」
彼は自らの手を見つめる。
「事実として、自分はこの手でサスケさんを刺しました。感情など関係ありません。
だから・・・・・・もういいでしょう。自分、疲れちゃいました。慣れないことをするものではないですね」
「待っ」
「議論がお済みのようですね」
僕の制止の声を遮るかのように、クウギョが中央に現れた。
「では皆様、今から当事件についての犯人が誰なのか、投票をお願いします。
お手元の電子機器の投票アプリから犯人だと思われる人物を指名し、決定ボタンを押してください」
「クウギョ待ってくれ。まだヒナタくんと話していないことが――」
「もうありませんよ。進めてください」
「当人もそう言っておりますし、投票をお願いします、猫泉様」
「・・・・・・分かったよ」
ヒナタくんは対話を拒否してくる。
これ以上はもう駄目かもしれない。
僕は自分のスマホの投票アプリを立ち上げる。
『猿島サスケが死亡した事件の、犯人だと思われる人を選択してください』
記載方法がいつもと違うのは、きっと議論の中でもあったが、サスケくんの自殺の可能性もあったからだろう。
しかしながら、今回の犯人は彼だ。
僕が押したのとほぼ同時に、部屋が暗くなる。
「それでは結果が出ましたので表示します。投票結果は以下の通りです」
犬飼ヒナタ 6票
猿島サスケ 1票
「あー、やっぱり駄目でしたか」
ヒナタくんが肩をすくめた。
「これだけ素直に認めたら、何かあるかと勘違いしてサスケくんに入れてくれるかと思ったのですが、やはりこうなりますよね」
「ヒナタくん、君は・・・・・・」
「ということで、結果、最多投票は犬飼ヒナタ様になりました。
犬飼ヒナタ様が犯人だったかどうかについては、処刑後、お伝えいたします」
いつものようにクウギョはそう言うと、間髪入れずに続ける。
「ここでいつものようにですが、犬飼ヒナタ様についての情報を皆様にお伝えします」
いつもの、醜悪な情報。
それに反発するまでもなく、ヒナタくんは諦観の表情だった。
「犬飼ヒナタ様は小学校中学校とお一人で過ごされることが多かったです。
ですが、それは犬飼様の両親に原因がありました。
犬飼様の両親は、殺人で逮捕されていたのです」
・・・・・・え?
この前ヒナタくんに聞いた話ではそんな情報は無かった。
「そのせいで彼は目立たないように、という生き方になったのです。
それにきっと、更には殺人事件が起こる度に心を痛めていたのでしょう。
両親のことを思い出したりしていたのかもしれません」
「・・・・・・自分の気持ちを勝手に推察しないでください」
平坦な声色のままのヒナタくん。そこには怒りも悲しみも、何の感情も載っていない。
彼はもう全てを受け入れているようだ。
と、
「はい・・・・・・ええ・・・・・・ああ、そうですか」
クウギョが唐突に誰かと会話し始めた。
一体何なのかと思っていると、
「えー、ここで主催者からの要望により、いつもは処刑後に行っている犯人かどうかの確認を、今回は処刑前に行います」
「え・・・・・・?」
今回だけ何で事前にそんなことを・・・・・・?
あの意地が悪い主催者側のやることだ。
もしかして、犯人が異なっていて、それを認知した状態で違う人を処刑するなんてことをするために――
他の人も同じように思考がたどり着いたのだろう、みんなが困惑した様子を見せている中、部屋が暗くなる。
「今回は特別に、猿島サスケ様が絶命した時の映像を用意しました。皆様、こちらをご覧ください」




