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62話 3章 ~円卓会議~ -04

「それは違うと、探偵の第六感が叫んでいるよー」



 そうはっきりした声で、ビシリ、とユウリくんは人差し指をヒナタくんに向けた。


「他にもヒナタが怪しいってことはあるよー」

「・・・・・・ユウリさん。君も自分が犯人だと思っているんですね。悲しいですよ」


 冷めた目を向けてくるヒナタくん。

 対してユウリくんは真っ直ぐに受け止めて言葉を返す。


「犯人じゃないなら、このことについてきちんと弁明してねー」

「いいですよ。何でしょうか?」

「ヒナタが言うことが正しくても、チハヤが言うことが正しくても、停電が開けた直後くらいから、サスケは娯楽室で血を流して倒れていた、ってことだよねー?」

「そうなりますね」

「で、みんなに聞きたいんだけどさー、確かチハヤを刺した犯人探しにみんなで探索したんだよねー?」

「ああ、そうだ。大体22時ちょっと前あたりか」

「その時に娯楽室を探さなかったの?」

「中は探さなかったよ。中に入らずとも臭いで分かるってヒナタクンが言っていたから・・・・・・」

「・・・・・・ああ、もしかしてそれって、自分が臭いで分からなかったわけがない、ということですかね。分かっていましたよ、当然」

「どういうことだ、犬飼ヒナタ?」

「娯楽室の中で血の臭いがしたのは分かっていましたよ。だけどサスケさんに『黙っててくれ』って言われていたので何かあるかと思って、皆さんには黙っていたんです。すみません」

「そんなの後付けだろ!」

「いや、後付けだが理屈は通る。残念ながらな」

「そういえば停電が直ったのって21時15分とかそこら辺だっけ?」

「いや、そのちょっと後かな。大体21時25分くらいかと」

「停電が直った時間がなんか関係するんですか?」

「いや、サスケが入ってから20~30分以上経っているなー、ってことだけだよー」

「そんな無駄なことはどうでもいいじゃないですか。

 とにかく、それのどこが自分が怪しいというのですか!?」


 ヒナタくんが机を叩く。

 彼の怪しい所。

 もしかすると、僕は見つけてしまったかもしれない。


 となると、1つだけ推測になってしまう部分があるが――


 ・・・・・・言うしかないか。


「ヒナタくん、今の話を聞いて疑問に思ったことがあるんだ」

「何ですか?」


「どうして臭いに気が付かなかったんだろうね」


「だからそれは自分が嘘をついて報告しなかったからで」


「いや、僕(・)達(・)が(・)、だよ」


「・・・・・・っ!」


 ヒナタくんの目が大きく見開かれる。


「サスケくんが血を流したのは停電直後。そこから20分から30分以上経っていた時に、僕達が朝にあれだけしていた血の臭いを、夜の時は全くしなかったのは、一体何でなんだろう?」

「・・・・・・確かにそうだ、猫泉コータ」


 ジンくんがハッとした表情になる。


「血はおおよそ20分から30分後に酸化し、強烈な臭いを発する。あれだけの血の量であれば22時前の巡回時に私達もその臭いに気が付いたはずだ」

「それは・・・・・・あの部屋が換気されていたとかで気が付かなかったのではないですか?」

「いや、あの部屋は窓もなく、換気も非常に悪かったよ」

「おいコータ。確かに臭いはしなかったけどよ、でもそれって何でだ?」

「それは・・・・・・」


 チハヤくんの問いに、僕は推察を口にする。


「『能力』だよ」


「はあ? 『能力』だあ? 誰のだよ」

「勿論、ヒナタくんのだ」

「え? でもヒナタクンの『能力』って鼻が良くなる、ってことじゃ・・・・・・」

「違うんだ。それだと臭いがしなかった理由にならない」


「まさか犬飼ヒナタは――『能力』を偽っていた、ということか?」


「そう。ヒナタくんの本当の『能力』、それは・・・・・・

 『臭(・)い(・)を(・)変(・)化(・)さ(・)せ(・)る(・)』だと思う」


「臭いを変化させる、だと・・・・・・?」

「そうだよ。その『能力』で血の臭いを『無臭』にしたんだ。だから僕達は気が付かなかったんだよ」


「・・・・・・いい加減にしてください!」


 ギリ、と歯ぎしりをするヒナタくん。


「自分を犯人にしたいからってそんな無理矢理に『能力』を偽装するんですか!? 自分の『能力』がそんな都合のいいものだったなんて、今更」


「あ!」


 唐突に声を上げたのはマシロくんだった。


「コータさん! そういえばあったよ!」

「あった?」

「匂い関係で不可思議だったことだよ。確かあの第1の事件が起きた日の朝だったかと思うんだけど」

「あの日の朝? 確か・・・・・・」


 思い出を探る。

 夜中にサイくんがタケルくんを殺した日。


 あの日の朝はマシロくんと会って中庭に行ったはずだ。

 そこで後からランニングしているヒナタくんと合流して――



「・・・・・・そうか。パ(・)ン(・)か!」


 パン? と首を傾げるみんなを余所に、マシロくんが手を合わせる。


「はい。あの時、ヒナタくんが汗臭いのを嫌って近づくなっていった直後に、美味しそうな小麦の焼けるいい匂いがしたじゃない」

「そう。だけど、あの日の朝ご飯にパンは出なかった」

「ずっと何でだろう、って思っていたんですよ。それがヒナタさんの『能力』だったなら納得です! はあ、すっきりした!」


 清々しい表情になっているマシロくんとは反対に、ヒナタくんの顔は青ざめていた。


「ヒナタくん、僕だけじゃなくてマシロくんも見ていた、いや――感じていたんだよ。君の本当の『能力』は『匂いの変化』だ」

「・・・・・・」


 押し黙る。

 言い訳しても信じてもらえないのだと悟っただろう。

 証明するすべが、逆にヒナタくん側も出来ないのだから。


「逆に言うと、この犯行は君にしか出来ないんだ。

 サスケくんは視覚、聴覚、それと口を塞ぐことしか出来ないんだ。

 嗅覚だけは――ヒナタくんだけしか、犯行が出来ないんだよ」


 ここまで揃うと間違いない。

 今回の犯人は、ヒナタくんだ。


「ねえ、どうして君はサスケくんを・・・・・・」


「・・・・・・証拠は」


「え?」


 キッと顔を上げ、彼は大声を放つ。


「証拠はあるんですか!? 自分がやったっていう証拠が!

 それがなきゃ自分は最後まで否定しますよ!

 だってあくまで想像でしかないんですから!」


 徹底抗戦の構えのヒナタくん。

 ならばこちらもきちんと向き合おう。


 君がなんでこんなことをしたのか――真っ直ぐに。


「自分が犯人だっていう証拠を提示してくださいよ! サスケさんが自殺した可能性もまだあるじゃないですか!」

「で、でもそれはさっき臭いの件で出来ないと・・・・・・」

「サスケさんが停電直後に血を流したら、っていう前提条件じゃないですか! 22時以降に血を流していたら臭いなんてしませんよ!」

「だが君の証言だと猿島サスケは腹部に包丁が刺さっていたのだろう。深さはともかく、動いても抜けないくらいにはしっかりと。その状態で30分以上意識が保てたとは到底思えない」

「それでも根性を見せたかもしれたじゃないですか! サスケさんが気絶しなかったっていう証拠でもあるんですか?」

「あのビリヤード台が証拠だよ、ヒナタクン。だって血を引きずった跡があったじゃないか。それって大量に血を流した後じゃないと動かせないよ」

「娯楽室が最初からビリヤード台で封鎖されていたっていう証拠でもあるんですか!? ビリヤード台を動かしたのも22時以降で自分の左胸をビリヤードのキューで刺した後かもしれないじゃないですか!」

「だったらビリヤードのキューについている指紋を採ったらどうだ?」

「駄目だよ。あれは血まみれすぎて指紋採取できないよ。なんか意図的に血の中に転がしたように握る部分は血で真っ赤だよ」

「そのせいで順手なのか逆手なのかも分からないんだよねー」

「順手と逆手で何か違うの、ユウリさん?」

「うん。だって逆手だったらサスケが自分で刺した、ってことになるじゃん。順手だったら犯人の手形ってことになるよ」

「いや、逆手でも猿島サスケが刺された後に抜いたのならば、その手形はつく可能性がある」

「どっちにしろ分からないってことかー」

「ビリヤードのキューで刺した時の返り血とかは?」

「ないと思う。ヒナタクンにそんな跡はなかった」

「ほら! それこそ自分が刺していないって証拠ですよ!」

「それは娯楽室にあった布越しに刺せば飛び散らないから証拠にはならないよ、ヒナタクン」

「だったらその布を使ったって証拠でもあるんですか!?

 指紋でも残っていたんですか!?

 サスケさんが何かメッセージを残したとでも!?

 それとも自分が犯人しか知らない証拠でも知っているとでも!?

 そんなもんな何もないんですよ!

 だって自分は犯人じゃないんですから!」



「コータ、ヒナタの言っていたことで、本当なの、って思うことが1個だけあったんだー」

「・・・・・・うん。それが何かは分かっている。そして、それは本当だよ」

「そうなんだー。じゃあ、それが何か――答え合わせしてよ」


 ・・・・・・そのユウリくんの声が優しく聞こえた。

 気のせいなのかもしれない。

 僕の心が求めていたのかもしれない。


 だけど。

 僕は告げなくてはいけない。


 それは――犯人しか知らない、ということを。



「・・・・・・ヒナタくん。いくつか質問していい?」


 穏やかに、平坦に、僕がそう訊ねると、ヒートアップしていたヒナタくんも大きく深呼吸をした後に落ち着いた様子で答えた。


「・・・・・・はい。何でしょうか?」

「君はサスケくんの死体・・・・・・遺体を、しっかりと見た?」

「・・・・・・いいえ。直視できなかったのでお腹に包丁が刺さっていることくらいしか覚えていません」

「サスケくんの秘密、って何か聞いていたりする?」

「秘密? なんのことですか?」

「とぼけなくていいよ。もう、この場で言っちゃいな。じゃないと君が疑われるよ」

「秘密・・・・・・そんな大層なもの、何も聞いていませんけれど・・・・・・あ、『能力』が片手でも使える、ってことですか? だから片手に包丁を持てたんじゃないかと」

「・・・・・・そうか。それが彼の1番の秘密だと思っている、ってことだね」

「コータさん。何が言いたいんですか?」

「言いたいことは、ただ1つだけだよ」


 目を伏せちゃ駄目だ。

 目を逸らすな。


 しっかりと――見据えろ。


「どうして君は、サスケくんが刺されたのが――左(・)胸(・)だと思ったの?」


「え・・・・・・?」


 ヒナタくんは一瞬呆けた後、ひきつった笑い顔を見せる。


「な、何を言っているんですか? ジンさんが言ったじゃないですか。ビリヤードのキューで刺された、って」

「私は確かにそう言ったな」


 ジンくんは大きく頷いた直後、今度は首を横に振る。


「だが私は一度たりとも『左胸を刺された』とは言っていないんだ」


「……え?」


「そう、そこがおかしいと思ったんだよー」


 ユウリくんが続ける。


「サスケって即死じゃなかったって言ってたのに、どうして左胸を刺された、って言ったのかなー、って」

「確かにそうだよ。左胸だったらサスケさんの心臓を刺されているからビリヤード台とかも動かせないじゃないか」

「勿論、その胸のビリヤードキューを抜くことも出来ないよね」

「あ? だったらどうしてサスケは即死してねえんだ?」

「完全内臓逆位、といってな、猿島サスケは内臓の位置が全部反対なのだ」

「全部・・・・・・反対・・・・・・?」

「うん。話の流れでだったけど、僕はそのことをサスケくんに聞いていたんだ。

 彼は秘密にしてほしい、って言っていた。

 だから僕以外の誰にも喋っていないんだって。

 勿論――ヒナタくんにも喋っていないって」


「・・・・・・」


「だからそういう特異的な身体だということは、僕と、死体を検分したジンくんしか知らなかったんだ」

「しかも表面上から左胸を刺されたのは分からない。血だらけだったからな。まあ、それも先の質問から意味を成さなくなったことではあるがな」


 もし、現場に残ってジンくんと共に死体をよく観察していたら。

 もし、死体検分が時間ギリギリまで掛からずに他の人に情報を提示していたら。

 もし、サスケくんから事前に内臓が反転していることを聞いていたら。


 全ての、もし、があったら、分からなかったことだ。

 でも、だからこそ、確証を持って言える。


「サスケくんが左胸を刺されたという情報を知り得るのは、僕とジンくん、そして犯人だけなんだ」


 つまり――



「猿島サスケくんを殺害した犯人は君だ。――犬飼ヒナタくん」




「・・・・・・っ」


 ヒナタくんは口を開き反論しようとする。

 だが、その口から言葉は出てこない。

 すぐに首を振って自身のこめかみに手を当て、また口を開く。

 それらを数秒繰り返し


 やがて小さく、息と共に言葉を落とした。




「あれだけ、お膳立てして貰ったのにこうなるなんて。

 やっぱり自分は――『落ちこぼれ』ですね」

読んでいただき、ありがとうございます


補足説明……というか紹介になります。


道中に出てきたパンの匂いの伏線部分ですが、

「15話 1章 ~日常編~」になります



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