61話 3章 ~円卓会議~ -03
サスケくんが犯人。
ナギサくんのその言葉に、円卓内は静まりかえった。
そんな中、次に口を開いたのは、先程まで渦中の人物であった
「サスケが犯人って・・・・・・自殺、ってことかよ?」
「おれはそう思っている。サスケクンが自殺したと考えれば、色々と整合性が取れるんだ」
ナギサくんはフードの紐を握りながら答える。
「例えば、凶器がビリヤードのキューで突かれて殺されたっていうけど、もしここで他に犯人がいたら不可思議な状況が1つあるよね」
「不可思議な状況?」
「コータクン、君がさっき導き出したことの中で、チハヤくんに殺されそうになって逃げた、っていう前提なら成り立っていたことがあるよね」
「それって・・・・・・」
先で議論していたことを思い返す。
チハヤくんに殺されそうになって逃げたからこそ不自然ではない状況――
「あ。それってもしかして――娯楽室が封鎖されていたことだよね」
ナギサくんが頷く。どうやら正解だったようだ。
「もしサスケくんが娯楽室で誰かから刺されたんならば、彼が娯楽室を封鎖するはずがないよね。むしろ娯楽室の外へと出て助けを求めるはずだ」
「確かにそうだよね・・・・・・だとしたらどうしてサスケくんは娯楽室を封鎖したんだろう」
「それはきっと、邪魔されないようにするためじゃないかな」
「邪魔?」
「うん。1つ、おれ達は勘違いをしていたんだよ。」
ナギサくんが人差し指を立てて言う。
「最初、サスケクンが娯楽室を封鎖したのは、チハヤクンが追ってきてとどめを刺しに来るのを防ぐためだと思っていた。だけど、サスケクンが自殺をする場合は目的が封鎖する異なってくるよね」
逆、ってことは・・・・・・
「自殺するのを止められないため、ってこと?」
サスケくんが神妙そうな顔で頷く。
「そう。サスケクンはチハヤクンに殺されるわけに行かなかったんだよ。何故ならば、自殺をしなくちゃいけない――自分の手で自分の命を奪わなきゃいけなかったんだよ」
「・・・・・・そういう、ことだったんですか・・・・・・」
ヒナタくんが悲痛そうな表情で言葉を落とす。
どこか信じられないという感情が乗っている気がする。
「一体、なんでそんなことを・・・・・・」
マシロくんも口を塞いで驚いている様子を見せていたが、僕は何でそんなことをしたのか察していた。
「『神になる権利』のため、だよね?」
「多分そうだと思う」
同意の言葉を口にし、ナギサくんはクウギョに問いかける。
「クウギョ。もし犯人が自殺――自分で自分を殺した場合、神になる権利はどうなるの?」
「お答えしましょう」
クウギョがフヨフヨと中央に現れ、ヒレを広げる。
「自分で自分を殺害したわけなので、そういう場合は犯人は自殺者になります。
その場合、最多投票に自殺者がならなければ、神になる権利は『自殺者の方』になります」
「死んでいても?」
「神になる権利を手に入れられた場合は、それは死も生も関係ありません。何せ神なのですから。ただ意思疎通はしたいため、生き返らせはしますが」
「生き返らせる?」
「はい。生き返らせます」
クウギョが復唱する。つまり聞き間違えではない。
(だとするともしかして・・・・・・)
その言葉を聞いた途端、1人の人物の昨夜の行動がおかしいことに気が付いた。
「ちょっと待って」
「どうしたの、コータクン?」
「状況を整理するけど、サスケくんは体育館でチハヤくんを刺して、電気室でブレーカーを落とした後に娯楽室に向かってその扉を閉ざし、自殺した、ってことだよね?」
「うん。その流れだと思うよ」
「でも、そうじゃない証言をした人がいるのを、僕は知っているんだ。
・・・・・・そうだよね?」
僕は彼に視線を向ける。
「――ヒナタくん」
「・・・・・・」
ヒナタくんは表情を変えずに口を真一文字に結んだまま、僕をじっと見返してきた。
そんな彼に、僕は問い掛ける。
「昨日の夜、チハヤくんが刺された後に保健室に向かう途中に、君は1階の廊下にいたよね」
「・・・・・・いましたね」
「その時に、唖然としていた君に訊いたよね。『誰かそっちに行ったのか?』『誰なのか?』って」
「・・・・・・訊きましたね」
「答えは、前者は首を縦に振って、後者は首を横に振ったよね」
「・・・・・・そうですね」
「その後に聞いた話だと、ぶつかったのは停電の最中で、後ろ姿しか見ていなかった。その手に刃物が握られていたから怖かった、って言っていたよね」
「・・・・・・」
「・・・・・・ちょっと待って。それっておかしくないか?」
ナギサくんが疑問を挟んでくる。
「サスケくんは腹部に包丁が刺さったまま娯楽室まで行ったはずだ。その手に包丁が握られている訳がない」
「そういうことだよね。もし抜いてたら廊下が今より血だらけになっているはずなんだ」
「・・・・・・」
「ヒナタくん、嘘をつかないで教えてほしい。
あの時、本当は何があったの?」
沈黙を続けるヒナタくんに僕は訴えかけるように訊ねる。
数秒間の静寂が場を支配する。
そして
「・・・・・・もう、限界ですね」
ヒナタくんは深く息を吐いて首を何度も振る。
「すみませんコータさん。自分は嘘をついていました」
「ヒナタくん・・・・・・」
「どうしても受け入れられなくて・・・・・・でも、もう嘘はつきません。正直に話します」
ヒナタくんは目を伏せながら語った。
「あの停電があった時、何かにぶつかったんです。ただその時はなんだか分かりませんでした。でも電気が付いた時、それがサスケさんだというのが分かりました。
彼は自分に言ったんですよ。
『すまないっすけど、黙っててくれないっすか』って。
そこであいつ、お腹に包丁が刺さってて・・・・・・
保健室に連れて行こうとしたら、豹変したように自分を突き飛ばしてどっか行っちゃって・・・・・・しかも『能力』で何も言えないようにして・・・・・・そこにコータさんが来たんですよ。
どういうつもりなのか分からず、あとサスケさんの鬼気迫る表情に何も言えず・・・・・・そしてどこにいるかも分からなかったので、なるべく・・・・・・その、ちょっと何か考えがあるんだと思って、庇おうって・・・・・・中途半端のことをしちゃって・・・・・・何にも出来なくて・・・・・・」
ヒナタくんは両手で顔を覆う。
「あの時・・・・・・変なことを考えずに保健室に連れて行けばよかった・・・・・・自分は何であんなことを・・・・・・」
ヒナタくんの声は震えていた。
多分、自分の心も限界の時に唐突な出来事が起きて、思わぬ対応をしてしまったのだろう。 そして・・・・・・
「ヒナタくん、君は、サスケくんの死体を見て気が付いた・・・・・・いや、もしかしたら事前にクウギョに訊いていたのかもしれないね。
サスケくんが自殺することで、自分が『神』になろうとしているということを」
「・・・・・・そうすれば、サスケさんは生き返るじゃないですか・・・・・・」
ヒナタくんのその言葉は、肯定の言葉だった。
「あいつが何を考えていたのか分からない。何でチハヤさんを襲撃したのも分かりません。
だから、ちゃんと弁明させましょう。
チハヤさんにだって謝らせなくちゃいけないですし。
そう、そうですよ。
どうしてチハヤさんを刺したのか、皆さん気になりませんか?
どうしてこんなことを考えたのか。
ちゃんと聞いて、ちゃんと説教しましょうよ。ねえ、そうしましょう?」
ヒナタくんが顔を上げて訴えにも近い形で語りかける。
気持ちは分かる。
分かるけれど、君が言っていることは・・・・・・
「駄目だよー」
声を上げたのはユウリくんだった。
「ヒナタが言っているのは、サスケを神にしろってことでしょ? それは駄目だよー」
「・・・・・・どうしてですか?」
「だってそれをやったら他の人が処刑されちゃうじゃないー。罪もない人がねー」
確かにそうだ。
サスケくんを神にするということは、サスケくん以外に投票すること、すなわち、その人が処刑されてしまう。
「ですがサスケさんはきっとその方も生き返らせてくれますよ」
「そうなんだー。じゃあさー」
ユウリくんは目を細くする。
「ヒナタは、自分に投票しろ、っていうべきなんじゃないのかなー?」
「・・・・・・っ!」
ヒナタくんは、ひどく動揺した様子を見せた。
「処刑が嫌だって思うのはみんなそうだよねー。でもサスケは生き返らせてくれるんでしょうー? まさかサスケを信じていないわけじゃないよねー」
「・・・・・・それは・・・・・・」
「それとも――ヒナタに投票しちゃまずいことでもあるのかなー?」
「・・・・・・」
ヒナタくんは完全に押し黙ってしまった。
ユウリくんの言うことはもっともだ。
サスケくんが犯人であるのは先程の議論で明示された。
そんな彼を生き返らせるために――神にするために、一時的にでも誰かの犠牲が必要ならば、自分自身を立候補としてあげればいいことだ。
そうじゃないと、サスケくんに皆は投票するだろう。
それが出来ない理由があるとすれば――
「ユウリくん、まさか君は・・・・・・ヒナタくんが真犯人だと思っているの?」
ヒナタくんが真犯人ならば、処刑されてしまえばそれは真犯人が裁かれることとなり、サスケくんは生き返らない。
理屈上ではそうであるが、しかし、どうしてもそうは思えない。
だから僕は確認したかったのだ。
ユウリくんの意図を。
「んー、どうだろうねー」
しかしながら、ユウリくんは人差し指を顎に当てて首を傾げた。
「ただ単にヒナタがそうやらないのは何でかなー、って思っただけだよ。
だけど――いくつか疑問に引っかかるところはあったんだよねー」
「引っかかるところ?」
「うん。さっきまでの話でおかしいなと思ったところがあるんだよー」
「それはどんなことなの?」
「それはね。――チハヤ」
「ん、ああ、おう、なんだ?」
唐突に名前を呼ばれて動揺するチハヤくんに、ユウリくんは引っかかっていたというところを述べる。
「チハヤはさー、サスケの死体を見たのー?」
「ん? ああ、コータとナギサと一緒にな。腹に包丁がぐっさり刺さって血まみれになっていたサスケの死体を見ているぜ」
「じゃあさ。――どうして自分が殺したと思わなかったのー?」
自分が殺したと思わなかった・・・・・・?
「・・・・・・そうだよ。チハヤくんは誰かのお腹あたりを刺したって言ってたじゃん。真っ先にサスケくんの様子で自分がやったかもしれないって思うはずだよ」
「確かに・・・・・・チハヤクンの性格的に現実から目を逸らしていたわけじゃなさそうだし・・・・・・」
ナギサくんも同意する。
それに対し、当の本人は頭を掻きながら眉を下げる。
「あー、それは信じてくれねえかもしれねえけど、俺様がやったと思わなかったからだな」
「なんでそう思ったの?」
「それはよ・・・・・・あんな深く刺したつもりはなかったからだ」
チハヤくんは首を横に振る。
「確かに暗闇の中で反撃したけどよ、思い切り刃物の掴んで押し込んだ訳じゃねえんだ。刺さっていた刃物を抜いて、気配のある方に投げただけなんだよ」
「投げただけ・・・・・・だと・・・・・・?」
ジンくんが信じられないという声を出す。
「ジンくん、あの包丁は投げただけであれだけ深くまで刺さるものなの?」
「いや、絶対にそれはないな、猫泉コータ。あれは明らかに押し込まれたものだ。根元まで刺さっているのだからな」
「ということはつまり、刺さったかもしれないけれどあんなにあんな状態にはなるはずがない、ってことだよね」
「ああ。例え龍崎チハヤの力がどれだけ強くても不可能だ。・・・・・・ああ、なんということだ」
ジンくんが唐突に頭を抱えた。
「最初から気が付くべきだった。猿島サスケが腹部に包丁があれだけ刺さった状態で、地下から1階までとはいえ動けるはずがないのだ」
「で、でも電気室に血があったんだよね? だったらサスケさんが根性を見せた可能性も・・・・・・」
「根性だけでどうにかなる傷ではないのだ、兎沢マシロ。致命傷でなくとも動けば激痛に苛まれてどうにもならないだろう」
「ということは、サスケくんはチハヤくんの反撃を受けて負傷した。恐らくは包丁は刺さったんだろうね。でも、あれだけ深くはなかった」
「もしかしたら電気室で包丁を一度抜いたのかもね。ブレーカーを落とす前に。だからあそこだけ血痕があったのかもしれない」
「その可能性はあるね、ナギサくん。そこから傷口を押さえながら暗闇の中、サスケくんは娯楽室へと向かったんだ」
「階段を登る時に押さえていた手がずれたかして圧迫が緩み、血を垂れ流したのかもしれないな。それならば1階だけに血痕があったことも説明が付く」
「でもさー、そうだとしたら、あの人の言っていたこと、おかしくないかなー」
ユウリくんの言う通りだ。
この通りだとすると、先の証言と矛盾が生じる。
その人とは――
「――ヒナタくん」
「・・・・・・なんですか?」
「君は確かにさっきこう言っていたよね?」
『あの停電があった時、何かにぶつかったんです。ただその時はなんだか分かりませんでした。でも電気が付いた時、それがサスケさんだというのが分かりました。
彼は自分に言ったんですよ。
『すまないっすけど、黙っててくれないっすか』って。
そこであいつ、お腹に包丁が刺さってて・・・・・・
保健室に連れて行こうとしたら、豹変したように自分を突き飛ばしてどっか行っちゃって・・・・・・しかも『能力』で何も言えないようにして・・・・・・そこにコータさんが来たんですよ』
「停電の直後、廊下でサスケくんとぶつかった後、彼の腹部に包丁が刺さっていた。――そう言っていたよね? でもそれっておかしくないかな?」
「おかしい、とは?」
「さっきも言っていた通り包丁があれだけ深く刺さったままだと移動すら出来ない、というのがジンくんの見込みだよ。なのに君はそう証言している」
何故そんな証言をしてしまったか。
それはきっと単純な話だろう。
「多分君がサスケくんを見た時は、包丁が腹部に刺さった状態だったんじゃないかな?」
「どういうことなの、コータさん?」
「ヒナタくんがサスケくんを見たのは、廊下で、じゃなかったんだ。その場所は――」
僕はヒナタくんが本当にサスケくんと遭遇したであろう場所を示す。
「――娯楽室の中だよ」
「娯楽室の・・・・・・中・・・・・・?」
「本当はヒナタくんが腹部に包丁が刺さったサスケくんを見たのは、娯楽室の中だったんじゃないのかな。恐らくだけど、停電が解消された直後に」
「それだと成り立つな」
ジンくんがモノクルに触れる。
「猿島サスケは停電中に娯楽室にたどり着いた。恐らく音かなんかで、そこに犬飼ヒナタがいたのも分かったのだろう。そこで・・・・・・自分自身で包丁を刺した」
「自分自身で刺した!? 一体何のために?」
「さあ、私にはその理由まで不明だ、兎沢マシロ。もしかしたらその場にいた犬飼ヒナタに罪を着せるために刺したのかもしれないな。二重三重の罠として。
だが――それを利用された」
「・・・・・・いい加減にしてくださいよ」
ヒナタくんが静かに、しかしはっきりとそう言う。
その声は怒りをはらんでいた。
「どうして自分が犯人だということで話が進んでいるんですか?」
「だ、だって今までの話だとヒナタさんが明らかに何か隠していて・・・・・・」
「それだって、チハヤさんが『包丁を反撃で投げた』って証言したからですよね。
それが本当だっていう証拠はあるのですか?」
「あ? 俺様が嘘をついているってのか?」
「客観的な話です。どうなんですか?」
「・・・・・・確かに、チハヤクンの証言が本当かは分からないよね」
「ナギサ!」
「事実は事実としてあげなきゃいけないよ。
その上で答えるけど、ジンくんが証言している通り、仮にチハヤくんの証言が嘘だったとしても、あれだけ深く包丁が刺さっていたら動けないって言ってたじゃないか」
「だったら自分の証言でもおかしくないですよね」
「え?」
「自分は『包丁がお腹に刺さっていた』って言ったんです。
『深く刺さっていた』なんて言っていないんですよ」
「それは・・・・・・」
確かにその通りだ。
だが、それは後付けの理論だとも言える。
何かないだろうか。
他におかしい点は――
「それは違うと、探偵の第六感が叫んでいるよー」




